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第68回アメリカ書籍レポート

世界の出版事情―各国のバベル出版リサーチャーより第67回

アメリカ書籍レポート - 4月 

アメリカの小学校中・高学年の子どもたちが今、楽しんでいる本

柴田きえ美(バベル翻訳専門職大学院生)


4月に入り、徐々に暑い日が混じるようになりました。日本の皆様はいかがお過ごしでしょうか。        最近、私の娘が『ハリー・ポッター』に夢中になっています。クラスでは、課題や宿題を誰よりも先に終わらせ、その余った時間を読書に費やしているそうです。そんな理由から、ここしばらく以前よりも頻繁に書店に通うようになりました。

 地元の大型書店「Barnes & Noble」では、一つの通路すべてを使い、大きな書棚四つ分を占拠して『ハリー・ポッター』特集が組まれています。ペーパーバックやハードカバーはもちろん、スピンオフ作品やJ.K.ローリングの新作、さらにはキャラクターグッズやアクセサリー、LEGOセットなども取り扱っており、その充実ぶりに驚かされます。

 思えば、私が『ハリー・ポッター』を初めて目にしたのは中学生の頃でした。イギリスのホストファミリーの子どもたちが読んでいたのが初見だったように思います。それから何十年も経った今でも、子どもたちに愛され続けている物語であることに感慨深さを感じます。

 さて、今回はそんな娘に特別インタビューと称して、クラスでどんな本が流行っているのかを聞いてみました。小学校中学年から高学年の子どもたちが今楽しんでいる本には、どのようなものがあるのでしょうか。私の目には引っかからなかったシリーズが人気と聞き、意外に思ったのですが、書店の棚をよく見ると、確かに書棚三段を埋め尽くし、平積みされている注目作品でした。

 それでは、今アメリカの子どもたちがどのような本を読んでいるのか、さっそくご紹介していきます。

Warriors (シリーズ) (2003~現在)
著者:Erin Hunter (共同ペンネーム)
邦訳:ウォーリアーズ シリーズ (第1期~第4期まで)
共訳者:金原瑞人、高林由香子
出版社:‎小峰書店 (2009/2/1)

作品について:
『Warriors 』シリーズは、野生の猫たちが森の中で繰り広げるドラマチックな動物ファンタジーです。2003年に第1期がスタートし、2025年1月には最新シリーズである第9期「Changing Skies」の第1巻『The Elders' Quest』が発刊されました。このシリーズでは、森に暮らす4つの猫部族が「戦士の掟」を守りながら生活していますが、その世界には友情や愛情、裏切りといった人間社会と同じような葛藤が存在します。第1期では、家猫出身のファイヤハートが戦士として成長していく姿を描き、その後もシリーズごとに異なる猫たちが主人公となって物語が進みます。シリーズが独立しているため、世界観さえ呑み込めていれば、どのシリーズからでも気軽に読み始められるところが子供にとって手に取りやすいのかもしれません。
また、シリーズとは別に単独長編やマンガも刊行されており、どちらも人気を集めています。日本語版は現在、第4期までが出版されています。                                    

著者:
Erin Hunterは、女性児童書作家らの共同ペンネーム。ロンドン在住の編集者ビクトリア・ホームズが発案し、猫好きの作家であるケイト・キャリーやチェリス・ボールドリーらが物語を手がけてシリーズ化しました。第1期が大ヒットを記録したことで、シリーズの発展ともに新たな作家や編集者が加わり、現在も制作が続けられています。2017年にビクトリア・ホームズが健康上の理由で引退してからは、現在は5人の編集者がプロットを担当し、ケイト・キャリーとチェリス・ボールドリーが物語を執筆する体制になっています。

The Case of the Missing Marquess (Enola Holmes Series #1) (2006)
著者:ナンシー・スプリンガー
邦訳:エノーラ・ホームズの事件簿 - 消えた公爵家の子息
訳者:杉田七重
出版社:小学館〈ルルル文庫〉 (2007)

 

作品について:
Netflixで映画化されたヤングアダルト探偵小説シリーズ『エノーラ・ホームズ』は、名探偵シャーロック・ホームズの妹であるエノーラが主人公です。彼女は14歳の誕生日に突然姿を消した母親を探すため、ロンドンへと旅立ちます。
しかし、その道中で兄のシャーロックとマイクロフトの追跡をかわしながら、若き侯爵の誘拐事件に巻き込まれてしまいます。悪党たちの命を狙う罠や兄たちの追跡をかいくぐりつつ、母の行方を追うエノーラ。痛快なミステリーとティーン探偵ならではの冒険が描かれています。
映画だけでなく、グラフィックノベル版も出版されており、原作ファンや映像作品ファンの両方に楽しめるシリーズとなっています。

著者:
ナンシー・スプリンガーは、ペンシルベニア州在住の作家で、ファンタジーフィクションを得意としています。これまでにヤングアダルト小説や児童書を含む40冊以上の小説を執筆してきました。
作家としてのキャリアは、神話的ファンタジーからスタートしましたが、その後、現代ファンタジー、マジカルリアリズム、女性文学、さらには児童文学へと活動の幅を広げました。特に中高生向け作品では、アーサー王伝説を題材にした『I AM MORDRED: A TALE OF CAMELOT』や『I AM MORGAN LE FAY』が高く評価されています。
児童書の分野では、名誉ある「エドガー賞」を2度受賞し、Carolyn W. Field賞やChildren's Choice賞も獲得。その実力は折り紙付きであり、ALAベストブックにも数多く選出されています。
近年の代表作としては、ロビン・フッドの娘を描いた『Tales of Rowan Hood』シリーズや、シャーロック・ホームズの妹を主人公に据えた『エノーラ・ホームズの事件簿』シリーズが特に人気を集めています。

The Book of Dares (2021)
副題:100 Ways for Boys to Be Kind, Bold, and Brave
共著者: Ted Bunch / Anna Marie Johnson Teague
邦訳:なし
作品について:
本書は、少年たちに健全な男性性や尊重の心、感情面での成長を促すために、100のクリエイティブで楽しい課題が収録されています。暴力防止団体「A Call to Men」によって企画された、男の子向けのチャレンジブックです。
「固定観念を覆す挑戦」や「自分と異なる人についての映画を観る挑戦」、「友達が得意なことを教わる挑戦」など、多様なテーマの課題が揃っており、男の子たちが視野を広げ、ジェンダーに関する意識を高めるきっかけを提供します。
「少年たちへ」から始まるユーモアあふれる巻頭が読者を引き込み、巻末には保護者や教育者向けのあとがきも掲載。A Call to Menが実践してきたカリキュラムをベースに、若い世代が自分らしく成長できるようにサポートする一冊です。男の子を持つ親たちへもお勧めです。

著者:
テッド・バンチとアンナ・マリー・ジョンソン・ティーグは、暴力防止教育を推進する「A Call to Men」という団体で活動し、男性や少年たちが健全な男性性を育み、暴力や差別を防ぐためのサポートを行っています。
テッドはプロアスリートやビジネスリーダー、活動家、そして少年たちといった幅広い層に影響力を持つリーダーです。一方、アンナ・マリー・ジョンソン・ティーグは、自身も息子を持つ母親であり、教育向上や女性への暴力撲滅といった社会問題に対するキャンペーンを全国規模で展開してきました。
テッドはニューヨーク在住、アンナ・マリーはテキサス在住。

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柴田きえ美

カリフォルニア在住。2017年1月からバベル翻訳大学院生として法律翻訳を勉強中。これまでに4冊の翻訳出版に参加。JTA 公認リーガル翻訳能力検定試験2級を取得し、フリーランスで翻訳をしながら課題にも取り組む。

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