AI(人工知能)は天使か悪魔か(2)
谷口知子:バベル翻訳専門職大学院修了生
日進月歩を遂げるAI(人工知能)技術革新であるが、映画のシナリオにあるように、いつの日か、AIは人間の敵となり、我々と戦うようになるのか。あるいは、地球自体がAIに乗っ取られて、人類は滅ぼされてしまうのか。はたまた、サイエンス・フィクションのストーリーにあるように、AIロボットと人間が合体可能となり、ハーフ(子供)が出来るような時代がくるのか。我々世代が、今までの歴史を振りかえってみても、I Phoneや動画電話やE-mail通信など、50年前には、夢物語のような話であったものが実現化し、その恩恵を受けている。今はまだ夢物語でも、それが日常となる時代がいつしかやってくる。特にIT分野における技術進化のスピードは速く、我々が思う以上に早く“その時“が来てしまうのかもしれない。
ここ数年のIT技術向上や進化には目を見張るものがある。ChatGPTを使って、AIにあらゆる分野でのサポートさせることが可能となっており、翻訳の世界でも文章精度が各段に向上した。また、ChatGPTへ質問を出すと、どんな分野でも即時に回答してくる。我々人間が時間を使って検索することなく、必要な情報が的確な内容と共に、瞬時にAIが教えてくれる。医療面での技術サポートも大きい。例えば、話かけると答えてくれる対話型ロボットなどは、アルツハイマー認知症を発症したお年寄りには効果がある、という論文も発表されている。人間の対応では限界があった分野でもAI技術を使えば、進化した解決策ができる。コロナ・ワクチンが1年という速さで開発できたのも、AI技術を駆使して臨床時間を短縮できたことなども良き例であろう。また、生物学とナノテクノロジー分野におけるAI進歩は、人間の身体的限界を押し広げ、寿命延長や健康増進を実現する可能性をも秘めている、と言われている。
2020年代には、バイオテクノロジーとAI が融合した寿命延長の第2フェーズが始まるという予見もある。AIにより画期的な治療法が開発され実用化しつつある(最も有望かつ最終的な解決策とされるのは、人体に入り、直接ダメージを治すナノロボットなど)これで人間が不死になるわけではないが、寿命は延長され、多くの人が120歳を過ぎても健康に生きられるだろうとされる。老化とは、いわゆる臓器の働きが衰えることなので、ナノ医療・ナノロボットが臓器の修復と増強を直に行う、最終的に必要であれば、生物学的に臓器全部にとって代わることも可能になるだろうと言う。
夢のような話ではあるが、しかし、技術が革新すれば、そのリスクも広範囲となることは避けられない。AIの制御問題、生物兵器としての脅威、ナノテクノロジーの悪用など、人間の存続を脅かす潜在的な危険性も大きく、十分な注意を払う必要がある。現在のAIやロボットの立ち位置は、人間のサポートといった地位に留まっているが、次のステージへさらに進化し、人間と対等な立場まで登ってきたとしたら、(自己判断力や自動進化ということが可能になったとしたら)相手の頭脳が高いが為に、想像すると恐いものがある。AIが人間の叡智を超え、人間を侵略し暴走化して、主従関係が転倒してしまったら、人間が支配下にさらされるというリスクさえある。AIはそもそも人間が開発したものだが、相手が高い知能をもっているが故に、この問題は深刻となる。人間対ロボットとの知恵比べが、戦争という形をとる、というリスクさえもあり得るのだから。そうならずに、Win-Winとなる関係性、人間とAIの共存が望めれば、一番の得策となるとは思うが、果たしてそう上手くコントロールできるか。
下記で紹介する本は、Win-Winとなる共存関係を元にした、未来予想図的な解説本である。AIとのSingularity(シンギュラリティ=転換点)がもし可能となれば、人間としての肉体は滅びるものの、個人のIQや人格といったものをAIに覚えさせ、AIの体を使って持続させることができる、その可能性を理論的に解説している。もし、それが実現すれば、古代から中国の皇帝などが、あらゆる手を尽くして欲しがったがどうしても手に入れられなかったもの「不老不死」が実現するような意味あいにもなる。AIとのシンギュラリティがもし可能になれば、AIの技術を使って、自分というものを永遠に生かすことができる。果たして、そんなことが実現する時代がくるのか。また、人類をそうまでして延命させることの真価とは。シンギュラリティは、人類の進化における次なる大きな飛躍点となる可能性を秘めているだろうが、この未知の領域へ踏みだす我々には、慎重さと大胆さを併せ持つ姿勢が求められる。技術の力を賢明に活用し、人類全体の繁栄につなげることが、我々の世代に課された重要な使命であるだろう。
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(書籍紹介):The Singularity is Nearer-“When we merge with AI” (Jul 2024)
著者:Ray Kurzweil 出版社:Viking (NY)
(著者紹介):レイ・カーツワイル : 社会/未来予見学者。AIエキスパート。未来学者として技術的特異点(シンギュラリティ)の到来をいち早く予見、人工知能(AI)の世界的権威として現在はGoogle社でAI開発の先頭に立つ。本書は、彼が世界に衝撃を与えた1作目:The Singularity is Near『ポスト・ヒューマン誕生(電子書籍版・シンギュラリティは近い)』(2007年小社刊)の続編となる。技術の進歩が加速度的に進み、人間の知能を超える人工知能が出現する未来の転換点、この概念は、ブラックホールの特異点(シンギュラリティ)から借用されている。カーツワイルは1冊目でも予測しているが、2029年までにAIがチューリングテスト(機械が人間としての判断力を持つかどうかの判断テスト)に合格すると予測し、2030年代には人間の大脳皮質がクラウドに接続されると考えている。2045年までに、非生物学的な思考能力が生物学的な部分を何百万倍も上回り、物理学の特異点(シンギュラリティ)に喩えられるほどの変革が起こると予測する。彼の予測の多くが現実化しつつある中、我々は技術進歩がもたらす変革の只中にいると言える。シンギュラリティへの接近は、人類に前例のない機会と挑戦をもたらすだろう。この変革を適切に管理し、利益を最大化しつつリスクを最小化するためには、技術開発と並行して、倫理的、社会的、法的枠組みの整備が不可欠である。同時に、教育システムの再構築、新たな経済モデルの探索など、社会全体での取り組みも求められる。
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谷口知子
バベル翻訳専門大学院修了生。NY在住(米国滞在は35年を超える)。米国税理士(本職)の傍ら、バベル出版を通して、日米間の相違点(文化/習慣/教育方針など)を浮彫りとさせる出版物の紹介(翻訳)を行う。趣味:園芸/ドライブ/料理/トレッキング/(裏千家)茶道/(草月)華道/手芸一般。