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第6回海外の出版業界情報 2024年10月                     

2024/10/22

アメリカ:児童向け翻訳本の未来

アメリカ市場で児童向け翻訳本を売り出す際に直面する課題と、その打開策について、Publishers Weeklyが出版関係者にインタビューした内容をまとめました。

アメリカの出版社からの視点ではありますが、日本から提案する側としてもヒントとなる点があるかと思います。 

出版社が直面するハードル

アメリカで出版される翻訳本は、全体のわずか3%にすぎません。そのうちフィクション本はさらに少なく、児童書やティーン向けとなると、ごくわずかです。アメリカでは表現の自由が強く尊重される一方で、特定の内容に対して厳しい反発があることもあり、特に児童向けの翻訳本では課題が増える傾向にあります。 

◆大人による「先制的な検閲」

翻訳本のいわゆる「外国らしさ」が、アメリカ市場で抵抗感を生みやすいことが問題視されています。

まず、親が児童書の「門番」となっていて、親が「理解しづらい」「暗い」「なじみがない」と感じる異文化の書籍を子どもが手に取らないよう制限している可能性があります。

また、編集者からアートディレクター、上層部に至るまでの出版関係者が、読者、教育指導者、保護者、評論家、インフルエンサーなどからの反発を恐れ、先回りして問題のありそうな書籍を排除している可能性もあります。この「先制的な検閲」は、本や作者の誠実さだけでなく、読者の知的好奇心や理解力にも悪影響を与えると指摘されています。

一方で、子どもたちは新しいことへの探求心を持っています。ブックフェアでの反応を見ても、子どもたちはこれまで見たことのない芸術的スタイルに触れることに対して前向きです。 

◆コストの問題

著者に前金を支払い、翻訳者に市場に見合った報酬を支払うと、英語の原作を取得する場合と比べて2倍から4倍のコストがかかります。また、挿絵入りの紙媒体で出版されることの多い児童書では、印刷コストが高くつきます。

スイスを拠点とする出版社は、北米に支社を立ち上げましたが、二つの課題を挙げています。まずアメリカ市場ではヨーロッパよりもリードタイム(企画から出版までの期間)が長いということ。そして、アメリカ市場では利益率が低いので、高品質を維持するには、豪華な装丁よりも安価で優れたデザインに力を入れるなどの創意工夫が必要だということです。 

◆市場参入の難しさ

アメリカ市場の規模の大きさも、課題のひとつです。アメリカ国内の大手出版社が大量に出版する書籍の中で、海外作品が販売の機会を見つけるのは容易ではありません。さらに、書店訪問やイベント、フェスティバルなどでの講演機会が少ないことも、不利に働いています。 

 

打開するための取り組み

◆ソーシャルメディアの活用

ある出版社では、現地で直接プロモーションを行えない代わりに、動画資料の制作や著者のソーシャルプラットフォームの活用に注力しています。これにより、「本の背後にいる人々を書籍バイヤーに感じてもらう」ことを目指しています。

また、ソーシャルメディアを通じて読者や教育関係者、図書館員、書籍バイヤーに書籍の内容を知ってもらい、著者とつながる機会を作ることにも力を入れています。 

◆現地拠点の立ち上げ

北米に支社を立ち上げた出版社は、「アメリカの編集者の好みに縛られたくなかったため、設立することに決めました。アメリカの出版社を説得することなく、私たちが最も好きな本を出版することができます」と述べており、実際に成果が出ています。 

◆認知度向上への努力

いくつかの翻訳本は賞を受賞し、書店や教育機関でも積極的に紹介され始めているものの、依然として一般的な知名度は低いです。翻訳者の役割を強調する取り組みや、国際的な絵本やグラフィックノベルを評価する賞の創設が、さらなる普及の鍵となると考えられています。 

◆翻訳本の意義の再認識

『うさぎのさとうくん』(著者 相野谷 由起)の翻訳本『Sato the Rabbit』などで、アメリカで多くの賞を受賞している出版社(Enchanted Lion Books)の編集者は、翻訳本の成功法則はないとしつつも、新しい文化や価値観を紹介する意義を強調しています。「独自の物語のスタイルやイラストの表現方法、全く新しい物事の考え方やストーリー展開に出会うと、出版したいという意欲が生まれる」と述べています。また、たとえ商業的な大成功を収めなかったとしても、「ニッチな層を見つけ、受け入れてくれる読者に巡り会える」とも言います。 

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日本の書籍をアメリカ市場で売り込む際には、版権の確保や契約条件の明確化など多くのハードルがあります。現地のパートナーと協力し、長期的な戦略を立てることで、アメリカ市場での成功の可能性を高めることができそうです。アメリカの出版文化を理解しつつ、効果的なプロモーション戦略を展開していくことが、翻訳書の普及と成功への鍵となります。 

Publishers Weeklyの記事サイト:https://www.publishersweekly.com/pw/by-topic/childrens/childrens-industry-news/article/95982-going-the-distance-the-state-of-children-s-publishing-in-translation.html

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