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                                     2024/6/7

           第11回 AI翻訳を利用した効率的な翻訳プロセス

小室誠一: 翻訳テクノロジスト(バベル翻訳専門職大学院プロフェッサー)

「翻訳の民主化」によって、翻訳を利用する側にとっても、翻訳を提供する側にとっても大きなメリットがあることが分かってきました。

そこで、今回は、AI翻訳(ニューラル機械翻訳+生成AIの翻訳機能)を利用した効率的な翻訳プロセスを考えてみましょう。

時間とコストの削減のために使用する

まず、AI翻訳がもたらす最大のメリットは、時間とコストの大幅な削減です。従来の人手翻訳は、熟練した翻訳者のスキルに依存し、高品質な翻訳を得るためには多大な時間と費用がかかります。しかし、AI翻訳を利用することで、瞬時に大量のテキストを翻訳することが可能となり、費用も大幅に抑えられます。特に、ニューラル機械翻訳は、自然な言語生成が可能であり、専門用語や文脈を理解しやすくなっているため、従来の機械翻訳に比べて格段に質の高い翻訳を提供します。

このようなメリットを生かしてAI翻訳を最大限に活用しているのがローカライズ翻訳です。

もともと大量短納期が特徴のローカライズ翻訳では、業界でもいち早く翻訳支援ツールを採用し、翻訳メモリや用語ベースを使って大量短納期に対応してきました。

ツールだけでなく、ワークフローも確立されており、それぞれの工程に熟練した作業者がチーム全体で翻訳を完成させていくスタイルになっています。

従来は、翻訳支援ツールのメイン機能である、「翻訳メモリ(対訳データベース)」の活用が中心でしたが、さらなる作業効率の向上が求められるようになってくると、蓄積された対訳データを深層学習して作成されたニューラル機械翻訳がワークフローに組み込まれるようになりました。

翻訳メモリに慣れ親しんだ翻訳者は、すでに翻訳メモリのファジーマッチの編集にも慣れているので、AI翻訳のポストエディット(後編集)も、それほど抵抗なくできます。

ローカライズ翻訳では、あくまでも翻訳メモリをベースとし、翻訳メモリにヒットしない部分にAI翻訳を埋め込んで利用することが多く、すべてにAI翻訳を適用してポストエディットするわけではありません。

ローカライズ翻訳では、事前のデータ準備から、翻訳、レビューまたはリバイズ(対訳チェック)、校正まで、それぞれの専門家が対応するので、AI翻訳を使用しても品質が悪くなることはほとんどありません。

ローカライズ翻訳というと、以前はマニュアルなどの技術文書がほとんどでしたが、今では、Webサイトの翻訳にも翻訳支援ツールが積極的に使われるようになって、マーケティングなどのビジネス文書関連の翻訳にもその手法が応用されています。

したがって、ビジネス翻訳を扱う翻訳者も、翻訳支援ツールを通じて、翻訳メモリ+AI翻訳を利用することが多くなっているのです。

このように考えてくると、AI翻訳と相性の良い文書は、基本的に翻訳支援ツールで処理できるものだということができるでしょう。要するに1文単位で翻訳しても問題ないものということです。

このことを踏まえて、もう少し詳しく見ていきましょう。

 

AI翻訳を活用した翻訳生産プロセスの具体的な手順

AI翻訳を利用して効率的かつ高品質な翻訳を実現するためには、ローカライズ翻訳のような適切な作業プロセスが大切です。

  1. 事前準備

目標の設定とリソースの確認

目的と対象読者の明確化:翻訳する文書の目的や対象読者を明確にします。例えば、マーケティング資料、技術文書など、翻訳の種類に応じて適切なアプローチを設定します。

言語ペアの決定:翻訳元の言語と翻訳先の言語を確定します。

リソースの確認:必要なリソース(専門用語集、参考資料など)を準備します。特に翻訳メモリの有無は作業手順に大きな影響があります。

  1. 文書の解析と前処理

テキストの整理と分析

原文の解析:原文の内容を理解し、特定の用語や表現の意味を把握します。特に専門用語や業界固有の言葉には注意を払います。

テキストの前処理:テキストをセグメント(文単位など)に分割し、AI翻訳が扱いやすい形式に整えます(翻訳支援ツールが自動的に分割してくれます)。また、不必要な情報やノイズを取り除きます。

  1. AI翻訳の実行

適切なツールの選択と翻訳実行

ツールの選択:最初に土台となる翻訳支援ツールを選びます(Trados、Phrase TMS、OmegaTなど)。次に、ニューラル機械翻訳(NMT)や生成AIの翻訳機能を提供するツール(例えば、Google翻訳、DeepL、OpenAIのGPTなど)を選定します。

初回翻訳の実行:選定したツールで原文を翻訳します。必要に応じて、用語集やカスタムモデルを使用して翻訳の精度を向上させます。

  1. 翻訳結果のポストエディット

翻訳品質の向上と調整

初回チェック:AI翻訳の結果を人間がチェックし、明らかな誤訳や不自然な表現を修正します。ポストエディター、翻訳者、リバイザーが担当することになります。

専門家によるレビュー:専門知識が必要な内容については、該当分野の専門家によるレビューを行います。例えば、法律文書であれば法務の専門家が、医療文書であれば医療の専門家がチェックします。

スタイルガイドの適用:企業やプロジェクトごとのスタイルガイドを適用し、一貫性のある翻訳を実現します。

  1. 校正と最終チェック

品質保証と最終確認

校正:文法、スペル、スタイルの一貫性を確認し、全体の品質を向上させます。

最終チェック:全体を通して再度確認し、見落としや新たな誤訳がないかをチェックします。必要に応じて、第三者による確認も行います。

  1. 翻訳の納品とフィードバック

成果物の提出と改善点の収集

納品:完成した翻訳をクライアントや関係者に納品します。納品形式は、要求に応じて適切に選びます(PDF、Word、PowerPoint、翻訳メモリなど)。

フィードバックの収集:クライアントや関係者からフィードバックを収集し、今後の翻訳プロセスの改善に役立てます。

ちなみに、上記の生産プロセスは、ISO17100(翻訳サービス提供者認証)に基づいています。 

生成AIの翻訳機能を活用する

生成AIの翻訳機能を活用することで、創造的な文章や複雑なニュアンスを持つテキストの翻訳が容易になります。生成AIは、単に文を直訳するのではなく、文脈を理解し、元のテキストの意図や感情を保ちながら翻訳することができるため、文学作品や広告コピーなどの翻訳にも適しています。このような機能は、特に多言語対応が求められるビジネスの現場で大いに役立つでしょう。

とは言っても、AI翻訳にはまだ課題も残されています。例えば、微妙なニュアンスや文化的背景を完全に理解し、反映することは難しい場合があります。また、専門的な分野や高度な専門知識が必要な翻訳では、AI翻訳だけでは十分な精度を確保できないこともあります。このような場合には、AI翻訳を補完する形で人間の翻訳者が関与することが求められます。

さらに、翻訳結果の品質管理や誤訳のリスク管理も重要です。AI翻訳は非常に便利ですが、完全に正確であるとは限りません。そのため、重要な文書や契約書などでは、最終的な確認や校正を人間が行うことが必要です。

このように、AI翻訳の利用は、効率的かつ経済的な翻訳プロセスを実現するための有力な手段である一方で、適切な活用方法と品質管理が求められます。翻訳の民主化を進めることで、多くの人々がその恩恵を享受できる一方で、適切なバランスを保つことが重要です。今後も技術の進展に伴い、AI翻訳の精度や機能が向上していくことを期待しながら、人間とAIの協力による最適な翻訳プロセスを追求していくべきでしょう。

AI翻訳を活用した文芸出版翻訳の具体的な手順

文芸作品の翻訳は、創造性や文化的なニュアンスを正確に伝える必要があり、特に慎重なプロセスが求められます。これまで文芸翻訳に機械翻訳が使われることはほとんどありませんでした。しかし、生成AIの翻訳機能はその可能性をもたらしてくれました。

ここで、ビジネス翻訳での生産プロセスに倣って、AI翻訳を活用して文芸作品を翻訳するための具体的な手順を考えてみましょう。

  1. 事前準備

目標の設定とリソースの確認

目的と対象読者の明確化:翻訳する文芸作品の目的や対象読者を明確にします。例えば、小説、詩集、エッセイなど、作品のジャンルに応じて翻訳の手法を設定します。

*対象読者や翻訳の手法については、生成AIにアドバイスをもらうことができます。

言語ペアの決定:翻訳元の言語と翻訳先の言語を確定します。

リソースの確認:原作に関する情報、著者の意図やスタイルガイド、関連する文化的背景の資料を準備します。

*情報収集を生成AIに手伝ってもらうこともできます。

  1. 文書の解析と前処理

テキストの整理と分析

原文の解析:原文の内容を深く理解し、特定の用語や表現、文体、リズムの意味を把握します。特に、重要なメタファーや文化的背景に注意を払います。

ビジネス翻訳のように、センテンスごとに分割することはしません。

要約文の作成、キーワードの抽出、文体の分析、訳出上の注意点などを生成AIにアドバイスしてもらうことができます。

  1. AI翻訳の実行

適切なツールの選択と翻訳実行

ツールの選択:翻訳支援ツールは使いません。AI翻訳ツールについては、センテンス単位の正確な翻訳ならニューラル機械翻訳(NMT)を、全体の文脈に基づいた翻訳なら生成AIを利用するなどの使い分けが有効です。もちろん、両方の出力を参考にするという方法もあります。

初回翻訳の実行:選定したツールで原文を翻訳します。文学作品の場合、特定のスタイルやトーンを保つために、カスタムモデルや特定の設定を使用することが重要です。

  1. 翻訳結果のポストエディット

基本的に文芸翻訳ではAI翻訳の出力文は参考程度にとどめ、ポストエディットは行いません。あくまでも自力翻訳が中心であり、解釈に迷ったり、良い表現がどうしても思いつかなかったりした場合に参照します。AI翻訳の出力文に使えるものがあれば、コピー&ペーストします。最近は「使えるもの」が増えているように思えます。

  1. 校正と最終チェック

校正ツールを活用することで、誤りの見逃しを防ぐことができます。

また、生成AIに翻訳の妥当性を評価してもらうこともできます。

このように文芸翻訳では翻訳そのものというよりも、その周辺の作業を生成AIに任せることで生産性を向上できるのではないでしょうか。

「マイGPT」の活用

ChatGPTに、一連の決まった作業をしてもらうのに、毎回プロンプトを入力のも面倒なので、マイGPTを設定しましょう。

サイドバーの「GPTを探す」をクリックして、右上の「マイGPT」の右側にある「作成する」をクリックします。

                   

新しいGPTの画面が開くので、「名前」「説明」「指示」などを記入します。                                                    「指示」がプロントになります。

以下は、筆者が試験的に作成した「Literary Translator Assistant」です。

英語の原文ファイルをアップすると、翻訳に役立つ5つの出力(要約、登場人物リスト、文体解析、用語集作成、冒頭の日本語訳2種類)を行います。

早速、ファイルを添付(ドラッグ&ドロップ)して「Enter」を押すと、自動的に処理が始まります。操作はこれだけです。

以下のような結果が出力されました。いかがでしょうか? 参考になれば幸いです。


eトランステクノロジー講座 https://www.babel-edu.jp/ett-pr/

 

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