アメリカのリテラリーエージェント:その役割と日本との違い
アメリカで本を出版したいと思った場合、原稿の送り先としては、出版社ではなくリテラリーエージェントを選ぶのが一般的です。これは、アメリカの出版社の多くが、直接送付された原稿は受領しないという姿勢を取っているからです。このことは特に、米国出版業界の市場シェアの 80 %以上を占める大手 5 社(ペンギン・ランダムハウス、ハーパーコリンズ、サイモン&シュスター、アシェット、マクミラン)において顕著であり、これら大手出版社は、エージェントを経由せずに著者から直接出版社に送られた原稿は受領しないことを明言しています。また最近では、これら大手の傘下にない独立系出版社でも、著者から直接送付された原稿は受け付けないとの方針が目立ってきているようです。出版社の人的資源は限られており、山のように送られてくる原稿を処理しきれないのは容易に想像がつくので、これも当然の流れなのかもしれません。そこで、出版社の代わりに作家や作品をスクリーニングする役割を担うのがリテラリーエージェントです。作品は、基本的に、リテラリーエージェントに認められてはじめて出版社に提案してもらうことができます。そのような事情から、米国での出版を考えるのであれば、まずはリテラリーエージェントについて知っておく必要があります。
アメリカの出版業界におけるリテラリーエージェントの役割は非常に重要です。リテラリーエージェントは作家と出版社との仲介者として、作家と出版社の双方が成功するためのサポートを提供します。これは日本とは大きく異なる点であり、日本でリテラリーエージェントがこのような役割を果たすことはまだ一般的ではありません。日本のリテラリーエージェントは、主に海外の著作権者と日本の出版社の間を仲介する窓口としての役割を担っています。つまり、海外の作品を日本で翻訳出版する際に、契約交渉のサポートや権利の管理などを行うのが主要な役割です。日本では、新人作家は、リテラリーエージェントに頼るのではなく、出版社に原稿を直接持ち込むか、文学賞を通じてデビューすることが一般的です。しかし、アメリカでは、先に述べたような理由から、リテラリーエージェントが作家のキャリアを大きく左右する存在となっています。米国のリテラリーエージェントの基本的な役割は下記の通りです。
1. 作品の売り込み:リテラリーエージェントは、作家の原稿を読み、商業的な可能性があると判断したものを出版社に売り込みます。エージェントは出版社と良好な関係を築いており、どの出版社がその作品に適しているかを見極める能力を持っています。
2. 契約交渉:エージェントは、作家に代わって出版契約の交渉を行います。これには印税率の交渉、著作権の保護、出版の範囲などが含まれます。また、作品が映画やテレビでのオプション契約を結ぶ際も同様の交渉を行います。
3. キャリアの管理と指導:アメリカのエージェントは、作家の長期的なキャリアの管理を助けることもあります。新しいプロジェクトの提案、作品の改善指導、さらにはマーケティング戦略の提案まで、作家のキャリア全般にわたるサポートを行います。
このように、リテラリーエージェントは、作品をそれに適した出版社に売り込んでくれるだけでなく、契約に関するサポート、作品をより良いものにするための指導、今後の活動に関するアドバイスなども提供してくれる非常に頼もしい存在です。特に、アメリカではじめて出版を目指す日本人にとっては、現地の事情に通じたリテラリーエージェントの力を借りるのが一番の近道であることは間違いありません。
今回は、アメリカのリテラリーエージェントの重要性やその役割について書きましたが、次回は、リテラリーエージェントを利用するための具体的な方法について、自分の作品に合ったエージェントを探す際のコツなどを中心にご紹介しようと思います。
荒木智子(あらき・さとこ)
立命館大学英米文学専攻卒業。バベル翻訳専門職大学院法律翻訳専攻修士課程修了。
特許翻訳歴約 10 年。心も体も健康に 150歳まで生きるのが目標。完全菜食主義で、野菜は自然農で自給を目指す。自然の美に感動しながら田舎で楽しく暮らしています。