出版業界誌から

第11回 海外の出版業界情報(2025年3月)

アメリカ ― 印刷書籍の販売部数が2年ぶりに増加

Publishers Weeklyによると、Circana BookScan*に報告を寄せた書店における2024年の印刷書籍の販売部数は、2年ぶりに増加しました。2024年12月28日までの年間販売部数は7億8,270万部で、前年(7億7,830万部)をわずかに上回り、1%未満ながら増加を記録しました。
市場を牽引したのは成人向けフィクションで、この傾向は例年と同様です。特にファンタジーの伸びが顕著で、前年比35.8%増となりました。

*Circana BookScan: アメリカの書籍出版業界のデータプロバイダーで、書籍販売のPOS(販売時点情報管理)データを集計。アメリカで販売される印刷書籍の約85%を網羅。

 

フィクション:「ロマンタジー」のブームとグラフィックノベルの減少

2024年の年間ベストセラーには、ファンタジー系の書籍が多くランクインしました。特に「ロマンタジー」(ロマンス+ファンタジー)が好調で、4作品が年間ベストセラー入りしました。
一方で、グラフィックノベルの販売は2年連続で減少し、前年比11.5%減となりました。しかし、成人向けフィクションのジャンル内では引き続き大きな市場シェアを維持しています。

 

ノンフィクションは微減

成人向けノンフィクションの販売は前年比0.5%減少しました。年間ベストセラーにランクインしたノンフィクション書籍は、ジェームズ・クリアー著『Atomic Habits』のみでした。成人向けノンフィクションの中で最も成長した分野は宗教関連書籍で、前年比11.5%増となりました。

 

児童書・ヤングアダルト市場の変化

児童向けフィクション市場全体の販売部数は前年比1.3%減少しました。また、ヤングアダルト(YA)フィクション市場は2021年をピークに毎年減少傾向にあり、2024年も前年比4.3%減となりました。

 

ミドルグレード(9歳~12歳)向け書籍の販売減少

Publishing Perspectivesによると、Circana BookScanの2024年上半期データでは、ミドルグレード(9歳~12歳)向けの販売部数が前年同期比で5%減少したことが指摘されています。同レポートでは、ドイツ市場における生徒の読解力低下と共通する課題が見られると分析されています。
また、「子どもたちがスクリーンを見る時間が長くなるほど、読書に割く時間が短くなる」という傾向も指摘されています。

 


この状況をふまえ、日本から書籍を発信する際に考えられるヒントをまとめました。

 

ロマンタジー、ノンフィクションの可能性

日本では「ロマンタジー」という分野は確立されているとは言えませんが、「異世界転生」などをテーマにしたライトノベルが多数出版されており、『聖女の魔力は万能です』(英語版『The Saint's Magic Power is Omnipotent』)など、すでに英語圏で人気を博している作品もあります。ただ、日本のライトノベルはシリーズ化されることが多く、一度に海外市場に投入する際のリスクも考慮する必要があるかもしれません。
一方、ノンフィクション書籍はアメリカ国内市場では減少傾向にあるものの、グローバル展開しやすいという利点があります。例えば、『Atomic Habits』は日本でも『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』として広く読まれており、「全世界で1,500万部販売」と謳われています。ベストセラーにランクインしていなくても、優れた書籍が発掘される可能性は十分にあります。

 

児童書市場の展望

児童の読書離れは世界共通の課題ですが、日本では親や祖父母の教育熱の影響もあり、児童書の販売は比較的堅調です。この傾向を活かし、欧米市場でも子ども本人ではなく、親世代をターゲットにマーケティングを行うことで、より効果的な販売戦略を立てられるかもしれません。

参照記事:
Publisher's Weekly:https://www.publishersweekly.com/pw/by-topic/industry-news/publisher-news/article/96842-print-book-sales-saw-a-small-sales-increase-in-2024.html

参照記事:
Publishing Perspectives:https://publishingperspectives.com/2024/07/circana-bookscan-us-prints-january-june-print-market/

 

<ライタープロフィール>

村山有紀(むらやま・ゆき)
IT・ビジネス翻訳歴10年以上。国内外の様々な場所での生活と子育ての
経験をふまえ、自分らしい発信のスタイルを模索中。

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