第 18 回 世界のブックフェアー
本と人と都市が出会う場所―グアダラハラ国際ブックフェア2025
グアダラハラ国際ブックフェア(FIL Guadalajara)は、1987年にグアダラハラ大学が創設した、スペイン語圏で最も重要な出版イベントです。プロフェッショナル向けの商談の場であると同時に、一般読者にも大きく開かれており、出版社、エージェント、図書館員、翻訳者、作家、そして読者が一堂に会する文化の大祭典として知られています。
2025年のFILは、第39回として11月29日から12月7日までの9日間、展示会場「エキスポ・グアダラハラ」で開催されました。64か国から2,790社が出展し、展示タイトルは約45万点にのぼり、千名近い作家が参加。会期中のイベントは3,000件を超えました。主催者によれば、今年の来場者数は953,112人となり、前年比約4万5,000人増(約5%増)を記録し、過去最高を更新しています。
今年の主賓都市を務めたバルセロナは、文学と都市文化を結びつける多彩なプログラムを展開し、とりわけ来場者の関心を集めました。バルセロナ・パビリオンは「市民広場」を思わせる開放的な空間として設計され、図書館、ステージ、ラウンジを備えた「街の一角」のような構成が来場者を迎えました。サン・ジョルディの祝祭を再現したブック&ローズイベントをはじめ、編集デザイン史をたどる展示「Los libros de Barcelona(バルセロナの本)」、公共空間における女性の150年の歩みを描く展覧会「Vendrán las mujeres(女たちがやって来る)」など、文学と都市文化を結びつけるさまざまなプログラムが実施されました。
また、2025年のFIL文学賞(Premio FIL de Literatura en Lenguas Romances)は、フランス在住のレバノン系作家アミン・マアルフに授与されました。この賞はロマンス諸語(スペイン語・フランス語・イタリア語など)で創作する作家を対象とし、多文化社会における葛藤やアイデンティティを鋭く描き続けるマアルフの創作活動が評価されました。
今年のFILは、登壇者の顔ぶれの面でも存在感を示しました。カタルーニャの国民的シンガーソングライター、ジョアン・マヌエル・セラットが名誉博士号の授与式とともに多くの聴衆を魅了し、ナイジェリア出身の作家チママンダ・ンゴズィ・アディーチェは、フェミニズムや脱植民地主義を語る講演を連日満席にしました。さらに、クリスティナ・リベラ・ガルサ、レオナルド・パドゥラ、エドゥアルド・メンドサなど、ラテンアメリカと欧州を代表する作家たちが会場をにぎわせ、俳優のガエル・ガルシア・ベルナルやリチャード・ギアが登場した文学と映画の対話イベントも大きな注目を集めました。こうしたスター性の高い登壇者の参加によって、フェアは従来の出版関係者中心の商談イベントを超え、読者が作家と直接出会う「文学フェス」としての性格をいっそう強めました。
2018年以降、メキシコ連邦政府とFILは文化政策や表現の自由をめぐる意見の相違から距離のある関係と見られてきましたが、2025年にはメキシコ経済省がフェアに国家ブランド認証である「Hecho en México(メイド・イン・メキシコ)」を授与しました。これは出版文化を国家レベルで評価する象徴的な行為であり、両者の関係が改善に向かい始めたことを示す出来事となりました。
こうした動きを総合すると、2025年のグアダラハラ国際ブックフェアは、過去最高の来場者数と国際的な参加規模、多彩な文化プログラム、そして世界的作家たちの議論を通じて、スペイン語圏最大の文学ハブとしての存在感を改めて印象づけました。数字の伸びにとどまらず、ラテンアメリカと欧州の文化が交わり、大学や行政といった公共部門と、出版社・作家・読者といった民間の担い手が同じ場に立ち会うことで、フェアは「対話の場」としていっそう成熟した姿を示しました。
なお、2026年のFILはイタリアが主賓国となる予定で、会期は11月28日〜12月6日の予定となっています。2025年に見られた国際協働の流れがどのように継承されるのか、出版界の注目が集まっています。
荒木智子(あらき・さとこ)
立命館大学英米文学専攻卒業。バベル翻訳専門職大学院法律翻訳専攻修士課程修了。
特許翻訳歴約 10 年。心も体も健康に 150歳まで生きるのが目標。完全菜食主義で、野菜は自然農で自給を目指す。自然の美に感動しながら田舎で楽しく暮らしています。















