第 16 回 世界のブックフェアー
アート出版の最前線を紡ぐニューヨークのふたつのブックフェア
アート出版がもたらす新たな文化のかたちを探るふたつのフェア、ニューヨーク・アートブックフェア(NYABF)とブルックリン・アートブックフェア(BKABF)は、同じニューヨーク市内で開催されながらも、それぞれ異なる視点と個性で運営されています。今回は、これら二つのアート関連のブックフェアに、それぞれどのような特徴があるのかを簡単にご紹介します。
ニューヨーク・アートブックフェア:世界最大級のアート出版祭典
NYABFは、1976年設立の非営利組織Printed Matterが2006年にスタートさせたアーティスト・ブックに特化した国際フェアです。2025年は、9月11日から14日にかけて、クイーンズの美術館MoMA PS1で開催されます。
2024年の実績では、300を超える出展者(30カ国以上から参加)と約39,000人の来場者を記録し、規模・国際性ともに群を抜いていました。出展者にはアーティスト、DIYの小出版社、インディペンデントプレス、古書店、コレクティブなどが名を連ね、ジャンルや形式を問わない多様性が際立っています。
NYABFの魅力は単なる販売にはとどまりません。アーティスト、作家、デザイナー、出版社に新作発表の場を提供する「The Classroom」、多様なテーマでセッションが行われる「Contemporary Artists’ Books Conference(CABC)」をはじめ、展覧会、アーティストトーク、ワークショップなど、教育と創造が融合したプログラムが展開されます。さらに、社会的・政治的テーマにも鋭く踏み込み、出版を通じた意志表明の場ともなっています。
ブルックリン・アートブックフェア:包括性と地域に根ざす新興フェア
一方のBKABFは、より地域コミュニティに根差したフェアとして、非営利団体「Endless Editions」の主催で2018年から継続的に開催されています。その使命は、「過小評価されている新進アーティストのためのプラットフォームを提供し、経済的な障壁を取り除くこと」。
2024年には、60の出展者が参加。社会的・政治的なテーマを背景に活動する出版団体も多く、作品を通じた発信の場としての役割が際立ちました。アーティストによるパフォーマンス、出展者による作品展示や販売、リーディングイベントなど、多彩なプログラムで来場者を楽しませました。
しかし、ボランティア運営によるこのフェアは、持続可能な運営体制の構築を目指すため、2025年の開催休止を発表しています。ただし、年間を通して開かれる小規模なプログラムやワークショップは継続しており、2026年の再開に期待が寄せられています。
両フェアは規模や運営方針こそ異なるものの、いずれもアート出版という領域が持つ創造性と多様性を体現しています。国際的なネットワークと圧倒的な規模を誇るNYABFは、世界中からの交流と発信の拠点として機能し、地域密着型のBKABFは、草の根から新たな才能を発掘し、文化の裾野を広げてきました。その相互補完的な関係は、今後のアートブック文化の発展にも大きな影響を与えていくことでしょう。
ニューヨーク・アートブックフェア
開催日:2025年9月11日~14日
会場:MoMA PS1(ニューヨーク市クイーンズ区)
https://www.printedmatter.org/programs/4-art-book-fairs
2025年は休止決定
小規模イベントや2026年の開催については、インスタグラムにて要確認
https://www.instagram.com/brooklynartbookfair/
荒木智子(あらき・さとこ)
立命館大学英米文学専攻卒業。バベル翻訳専門職大学院法律翻訳専攻修士課程修了。
特許翻訳歴約 10 年。心も体も健康に 150歳まで生きるのが目標。完全菜食主義で、野菜は自然農で自給を目指す。自然の美に感動しながら田舎で楽しく暮らしています。