世界のブックフェアー

第 8 回 2024 年フランクフルト・ブックフェア:国際的な出版の最前線

2024 年 10 月 16 日から 20 日にかけて、世界最大の書籍展示会である第 76 回フランクフルト・ブックフェアがドイツ・フランクフルトで開催されました。今年のフェアには 153 か国から約 4,300 の出展者が参加し、前年を上回る 23 万人以上の来場者が訪れました。来場者数はパンデミック前の水準にほぼ戻っており、出版業界の回復と活性化を象徴するイベントとなりました。

今年のフェアで特に注目を集めたのは、若い成人層をターゲットにした「ニューアダルト」ジャンルです。ヤングアダルト小説の次のステップとして位置づけられるこのジャンルは、青年期後半から成人期前半への移行期を描くもので、一般的に 18 歳から 25 歳、場合によっては 30歳までの読者を対象としています。アイデンティティ/自分探し、セクシュアリティ、自立、大学進学、社会進出などがテーマとして取り上げられることが多く、なかでもロマンス、コンテンポラリー、ファンタジーの形態をとる作品が特に人気のようです。また、女性読者の支持が特に厚いことも特徴となっています。今年のフェアでは、このニューアダルトというジャンルに専用のホールが設けられ、多くの若手作家やファンが集い、サイン会やトークイベントが連日大盛況を見せました。

また、今年のブックフェアは、アジア市場への関心が高かったことも特徴の一つとして挙げられます。日本のマンガが引き続き関心を集めたのと同時に、大規模なブースを展開した韓国のマンガ市場の成長も明確に示されました。中国ブースでは、中国国内の読者層と欧米市場に向けた作品が展示され、欧米の出版社との提携を積極的に進めている中国の存在感が目立ちました。また、日本の小説に対する関心も引き続き高く、特に癒し系の小説が注目を集めました。

今年のフェアでは、デジタル技術と AI が出版業界に与える影響について多くの議論が交わされました。特に、音声コンテンツ市場の成長が注目され、音声メディアの普及に伴い、音声とテキストを組み合わせた新しいコンテンツ形式や、AI による音声生成技術の利用が提案され、来場者の興味を引き付けていました。

出版業界におけるサステナビリティも大きなテーマとなり、環境に配慮した印刷技術やリサイクル可能な紙の利用など、持続可能な出版の在り方についても議論が深まりました。

全体を通して、2024年のフランクフルト・ブックフェアは、出版業界の最新トレンドと技術の進展、そして持続可能な未来への取り組みを示す重要なイベントとなりました。来場者数の増加や、新たなトレンドの出現、AI やデジタル技術の活用による新しい出版の形が見えたことで、出版業界の活力が改めて感じられるフェアとなりました。

<ライタープロフィール>

荒木智子(あらき・さとこ)
立命館大学英米文学専攻卒業。バベル翻訳専門職大学院法律翻訳専攻修士課程修了。
特許翻訳歴約 10 年。心も体も健康に 150歳まで生きるのが目標。完全菜食主義で、野菜は自然農で自給を目指す。自然の美に感動しながら田舎で楽しく暮らしています。

 

過去のブックフェアー記事はこちら