BOOKコミュニティ

Clever is the new cool

ブックコミュニティ第25回

BookTok×ドリンクのコラボに見る 読書文化の商業化


本を読むとき、飲み物を手にする人は多いだろう。コーヒー、紅茶、ハーブティー。読む本によって、選ぶ飲み物が変わるという人もいるかもしれない。そんな読書と飲み物の関係を商品企画にした動きが、この春アメリカで話題になった。
注目を集めたのは、飲料ブランドCrystal Lightが発表した、BookTokで人気の読書ジャンルに着想を得た企画商品である。Crystal Light は、水に溶かして飲む粉末飲料で知られるブランドで、今回はロマンス、スリラー、ファンタジーという三つのジャンルに対応した限定フレーバーを打ち出した。
ロマンスには、やわらかい甘さをイメージした「ハイビスカス・レモネード」。スリラーには、意外性のある味として「プリックリー・ペア(ウチワサボテン)・レモネード」。そしてファンタジーには、濃厚で異国的な印象を持つ「パッションフルーツ」。いずれも“読書しながら飲むドリンク”として提案されている。
重要なのは、飲料そのものではない。この動きが示しているのは、BookTokがもはや“本を紹介する場”にとどまっていないという事実である。読書ジャンルや読者コミュニティそのものが、出版社の外側でマーケティング資源として扱われ始めている。
従来、BookTokは書籍販売への影響力で語られることが多かった。実際、BookTokで話題化した作品が売上を大きく伸ばす例は広く知られている。しかし今回見えてきたのは、それとは異なる局面である。書籍ではなく、書籍をめぐる趣味や所属感覚が売られているのである。
ここで商品化されているのは、読書という行為そのものより、読書ジャンルに結びついたイメージだ。ロマンス読者、ファンタジー読者といったカテゴリーが、消費者属性として認識されている点は象徴的である。読者は「本を買う人」であるだけでなく、ライフスタイルを持つコミュニティ参加者として扱われている。
これは近年のブッククラブの変化とも通じる。欧米ブックコミュニティでは、書籍そのものより、参加すること、属すること、共有することに価値が置かれる傾向が強まっている。BookTokは、その構造をデジタル空間で可視化した場とも言える。
翻訳者や編集者にとって興味深いのは、この変化が「何が売れるか」だけでなく、「何が読者導線になるか」を変えている点である。従来、読者との接点は書店、書評、メディア露出が中心だった。だが現在、出版社以外のブランドが読書コミュニティに接続し、新しい入口を作り始めている。
これは、出版の外側で読者が形成される構造が、さらに商業的に制度化されつつあることを意味する。BookTokは今、書籍を売る場所である以上に、読者文化そのものを売る場所になりつつある。

 

<ライタープロフィール>

今田陽子(いまた・ようこ)
BABEL PRESSプロジェクトマネージャー。カナダBC州在住。シャワー中もシャンプーボトルのラベルから目が離せない活字中毒者。

 

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