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ブックコミュニティ第21回

Goodreads Choice Awards 2025
概要と主要受賞作に見る読書傾向


Goodreads Choice Awards は、世界最大級の読書プラットフォーム Goodreads が主催する、一般読者投票による年間アワードである。編集者や批評家ではなく、日常的に読書を行う多数の読者の選択が反映されるため、「その年に実際に広く読まれ、支持された作品」を把握するうえで有効な指標とされている。2025年も投票数は750万票超と非常に多く、ジャンルごとの受賞作からは、現在の英語圏読書市場の大きな方向性が見えてくる。

フィクション部門



Fredrik Backman『My Friends』

世界的に有名な絵画の片隅に描かれた、桟橋に座る三人の小さな人物。その意味を知ろうとする若き画家志望のルイーザは、25年前、海辺の町で家庭に居場所を持てずにいた少年少女たちが、友情とささやかな反抗を分かち合ったひと夏の物語にたどり着く。絵を託された彼女の旅は、友情と芸術が人生を変える力を静かに示していく。

歴史フィクション部門


Taylor Jenkins Reid『Atmosphere』

幼い頃から星に魅せられてきた物理学者ジョーン・グッドウィンは、1980年、NASAが女性科学者を募集していることを知り、宇宙飛行士を志す。厳しい訓練の中で仲間と友情を育み、思いがけない愛にも出会うが、1984年のある任務で運命は一変する。愛と選択が人生を変える力を描いた物語。

スリラー/ミステリー部門


Holly Jackson『Not Quite Dead Yet』

裕福な一族に生まれながら、人生を先延ばしにしてきた27歳のジェットは、ハロウィンの夜に正体不明の人物に襲われ、致命的な後遺症を負う。余命はわずか7日。家族や旧友、元恋人すら疑う中、幼なじみの助けを借り、自分を襲った犯人を突き止めようとする。死を前に、彼女は初めて「やり遂げる」決意を固める。

ロマンス部門


Emily Henry『Great Big Beautiful Life』

前向きな新人作家アリスと、名声あるピューリッツァー賞作家ヘイデンは、消息を絶った伝説的令嬢マーガレットの伝記執筆をめぐり、同じ島で競うことになる。1か月の試用期間で、二人は互いに異なる断片的な証言だけを与えられ、共有は禁止。張り詰めた競争心と抑えがたい感情の中で、真実と物語、そして自分たちの関係の行方が揺れ動いていく。

ロマンタジー部門


Rebecca Yarros『Onyx Storm』

バスギアス戦闘大学での訓練期間を終え、ヴァイオレットは本格的な戦いの只中に立たされる。内外から敵が迫り、誰を信じるべきかも分からない中、彼女は同盟を求めて未知の地へ旅立つ。愛する竜や家族、故郷、そして大切な人を守るため、すべてを賭けて真実を探し出そうとするが、その先には破滅的な嵐が待ち受けている。

2025年の受賞作全体を通して浮かび上がるのは、「読みやすさ」「感情移入」「ジャンルの融合」という三つの軸である。文学性や実験性よりも、読者が物語に入り込みやすい構成や文体が重視されており、この傾向は翻訳企画においても重要な判断材料となるだろう。Goodreads は、こうした「広く支持された読書体験」を俯瞰するための有効な起点であり、ブッククラブ選書や批評的評価と併せて読むことで、より立体的な市場理解につながる。

 

<ライタープロフィール>

今田陽子(いまた・ようこ)
BABEL PRESSプロジェクトマネージャー。カナダBC州在住。シャワー中もシャンプーボトルのラベルから目が離せない活字中毒者。

 

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