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ベストセラーは誰がつくるのか

ベストセラーは、どのように生まれるのだろうか。無論、作品そのものの魅力が大前提ではある。しかし現在の出版市場では、それだけで本が多くの読者に届くとは限らない。

英紙The Guardianは2026年8月29日、出版社や書店など出版業界の関係者への取材をもとに、現代のベストセラーが生まれる仕組みを特集した。そこから浮かび上がるのは、表紙デザインやキャッチコピー、著名人による推薦、書店での陳列、ブッククラブ、SNSなど、本と読者の間にあるさまざまな「推薦」の力である。

例えば、書店員による店頭での推薦や手書きのPOPは、今も本との出会いをつくる重要な手段だ。一方、サブスクリプション型のブッククラブでは、選書された作品が会員に一斉に届けられるため、まとまった販売につながることもある。そして近年、急速に存在感を高めているのが、TikTokをはじめとするSNS上の口コミである。

その変化を象徴するのが、TikTokの読書コミュニティBookTokだ。

TikTokは2026年、英国で公式の月間「BookTok Bestsellers List」を開始した。一般的なベストセラーランキングと異なるのは、実際の書籍販売データだけで順位を決めるのではなく、市場調査会社Media Controlと連携し、TikTok上での反響を、書店などでの実売データと組み合わせている点である。つまり、実際の販売実績とBookTok上での反響という二つのデータを反映したランキングなのである。

8月21日に発表された7月分のランキングでは、クレア・ダグラスの『The Family Friend』が初登場で1位となり、ダン・ブラウンの『The Secret of Secrets』、アリス・オズマンの『Heartstopper Volume 6』なども新たにランクインした。さらに参加書店では、ランクインした本に公式の「BookTok Bestsellers」ステッカーを貼ることができる。SNS上で生まれた評判が、今度はリアル書店の棚へ戻ってくる仕組みである。

BookTokの影響は、もはやネット上の話題だけでは測れない。市場調査会社Media Controlの分析によれば、2025年にはBookTokで推薦された書籍が欧州で5000万冊販売され、売上は8億ユーロに達した。またTikTokによれば、英国では同年、BookTokに関連する書籍販売が1100万冊を超え、8600万ポンドの売上を生み出した。

ここで興味深いのは、「誰が本を薦めるのか」が変化していることである。

かつて本を読者に薦める役割を主に担っていたのは、出版社、新聞・雑誌の書評、書店員などだった。その力は、もちろん今も大きい。しかし現在は、ブッククラブの主催者やSNSのクリエイター、そして一般の読者までが、本を発見してもらうための入口になっている。

しかも、従来の仕組みが消えたわけではない。むしろ、書店員の推薦、出版社のマーケティング、ブッククラブ、SNS上の口コミが重なり合い、一冊の本を読者へ届けている。BookTok Bestsellersのステッカーは、その関係を象徴している。オンラインの口コミが実売につながり、その結果がランキングになり、ランキングが再び書店で新しい読者との出会いを生むのである。

本欄ではこれまで、BookTokをはじめとする読書コミュニティが、読書の楽しみ方や本との出会い方を変えている様子を紹介してきた。大英図書館とBookTokが共同イベントを開催した8月号に続き、今回はその影響が出版ビジネスの仕組みにまで及んでいることが見えてくる。

翻訳者や編集者にとっても、この変化は無関係ではない。これからは「どの本を出版するか」だけでなく、「その本について誰が語り、誰が薦め、どこで読者と出会うのか」まで含めて考える必要があるのかもしれない。

ベストセラーをつくるのは、出版社だけでも、書店だけでも、SNSだけでもない。その間を行き来する無数の「推薦」が、本と読者を結びつけているのである。

 

<ライタープロフィール>

今田陽子(いまた・ようこ)
BABEL PRESSプロジェクトマネージャー。カナダBC州在住。シャワー中もシャンプーボトルのラベルから目が離せない活字中毒者。

 

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