BOOKコミュニティ

ブックコミュニティ第11回

AIと文学の融合

近年、AI技術の発展により、AIが執筆したフィクションやノンフィクション作品が急増しています。これに伴い、AI生成コンテンツの著作権や倫理的問題についての議論が、ブックコミュニティ内でも熱を帯びて語られています。AIが人間の創造性を補完するものなのか、あるいは脅威となるのかという視点で、さまざまな議論が巻き起こっています。
・AIと執筆:NaNoWriMoにおける論争
「National Novel Writing Month(NaNoWriMo)」は、毎年11月に開催される世界的な執筆イベントです。このイベントにおいて、AIライティングツールの使用に関する見解が議論を呼びました。2024年9月、NaNoWriMoの運営側は、「AIツールの使用を一律に禁止することは、階級差別的であり、能力差別的である」との立場を表明。つまり、AIツールは執筆のハードルを下げ、経済的・身体的制約を持つ人々にも執筆の機会を提供する、という考え方を示しました。
 しかし、この発表には多くの作家やブックコミュニティから批判も寄せられました。「AIが人間の創造性を損なう」「AI作品と人間の作品が区別できなくなる」といった懸念が示され、NaNoWriMoの作家委員会メンバーであるダニエル・ホセ・オールダー氏は批判に抗議し、辞任するにいたりました。この一件は、AIの活用と文学創作における倫理の問題を、改めて浮き彫りにしたと言えます。
・AI作品と人間の作品を区別する取り組み
AIによる創作物の急増を受け、米国の作家団体「Authors Guild」は、新たな取り組みを開始しました。それは、AIではなく人間の手で執筆されたことを保証する「Human Authored」認証制度の導入です。認証がある書籍にはロゴが付与され、読者はAI生成コンテンツと区別して選ぶことができるようになります。
 この試みは、AIがもたらす創作環境の変化に透明性を持たせ、人間が持つ物語の独自性や価値を守る目的で実施されています。今後、出版業界全体でAI作品の識別を促す動きがさらに広がっていくかもしれません。
・AI作品の大量投稿問題:Clarkesworld Magazineのケース
一方で、AIの普及により生じた問題もあります。米国のSF・ファンタジー雑誌「Clarkesworld Magazine」は、AIによって生成された作品の大量投稿を受け、投稿受付を一時停止する事態に陥りました。AIが生成した文章は巧妙で、編集者が人間の作者によるものと区別するのが難しくなったためです。こうした問題は、AI技術が発展するにつれ、他の文学雑誌やコンテンツプラットフォームにも波及する可能性があるでしょう。

一方で、AIを活用した新しい文学創作の可能性も広がっています。以下に、AIを活用した代表的なプロジェクトやツールを紹介します。
1.NovelAI https://novelai.net/
「NovelAI」は、アメリカのAnlatan社が開発した有料サブスクリプションサービスです。短いテキストを入力すると、それに続く文章をAIが自動生成してくれます。このツールは、作家やクリエイターが執筆のアイデアを練る際のサポート役として利用されています。また、AIによるイラスト生成機能も搭載されており、ビジュアルとストーリーの両方を補完できます。日本語版もあり。
2. Rebind https://www.rebind.ai/
「Rebind」は、AIを活用した新しい出版プラットフォームです。このサービスでは、AIが文学作品の解説を提供し、読者がより深く理解できるよう支援してくれます。また、ユーザーはAIと対話しながら、作品の背景や著者の意図について学ぶことができます。現在、ベータ版として10冊の書籍が提供され、毎月2冊ずつ新しい書籍が追加されています。
3. Ello https://www.ello.com/
子供向けの読書支援サービス「Ello」では、AIが子供の読書レベルや興味に応じた本を推薦してくれます。さらに、音読時の発音チェックや読解サポートを行い、読書習慣の定着を助けます。このようなAI支援型の教育ツールは、今後さらに普及していくと予想されます。
4.BookNote.AI https://www.booknote.ai/en
「BookNote.AI」は、WebLab Technologyが開発したAI要約ツールです。本の内容を短時間で把握できるよう、AIが要約を作成し、読者の読書体験を効率化します。このようなサービスは、ビジネス書や学術書の読解にも有用で、多忙な現代人にとって利便性の高いものとなっています。

AI技術の発展により、文学創作や読書体験のあり方は大きく変わりつつあります。AIによる創作は、新しい表現の可能性を広げ、人間の創造性を補助する役割を果たす一方で、「人間が書くこと」の価値をいかに維持していくかが、私たちが考えるべき重要なテーマとなるのではないでしょうか。AIの進化に適応しながら、文学の多様性と深みを守るための新たなルールやガイドラインも必要になってくるでしょう。
 今後、AIと文学の融合が進む中で、ブックコミュニティがどのような形で関わり、発展していくのかが注目されます。

<ライタープロフィール>

今田陽子(いまた・ようこ)
BABEL PRESSプロジェクトマネージャー。カナダBC州在住。シャワー中もシャンプーボトルのラベルから目が離せない活字中毒者。

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