文章を簡潔にまとめたり、正確に翻訳したりするのは意外と難しいものです。しかし、AIを活用すれば、効率よく要約や翻訳を行うことができます。

今回は、AIによる要約&翻訳の実践テクニックについて詳しく解説します。

1. 生成AI翻訳 vs. 従来型「機械翻訳の本質的な相違点

生成AIでも「翻訳」できるということが分かって、どんどん翻訳プロセスに利用されるようになってきましたが、実は、生成AI翻訳と従来型「機械翻訳」は本質的に異なっていることをご存じでしたか?

今回の本題に入る前に、この違いを理解しておくことは無駄にはなりません。

ちなみに、本記事で「従来型の機械翻訳」とは、現在主流のNMT(ニューラル機械翻訳)を指します。過去に使われていたルールベースや統計的手法とは異なり、NMTは深層学習を活用しており、既に業界標準となっています。

汎用LLM vs 専用翻訳モデル(NMT)の技術的違い

生成AI翻訳専用ではなく「何でも屋」

  • 同じプロンプトで要約翻訳例文生成を連続実行できる。
  • 指示次第で文体・長さ・フォーマットを変えやすい。
  • ハルシネーション(意図しない追加情報)が発生することがある。
  • マルチタスク(要約+翻訳)、創造的ローカライズ、カジュアル文に適している。

従来型機械翻訳は、翻訳以外を考慮しないぶん、訳質最適化が進んでいる

  • 入力文をできるだけ忠実に別言語へ変換する。
  • 主に逐語的な文単位出力。スタイル制御は限定的。
  • 数値桁落ち・固有名詞変形。分野外文書で誤訳率上昇。
  • 法務・特許・医療など高精度が要求される翻訳、大量バッチ処理に適している。

まとめると:

  1. 生成AI翻訳は「翻訳+編集+生成」を一手に担える万能エンジン。
  2. 従来型機械翻訳は「高信頼・大量処理」に特化した専門エンジン。
  3. 現場ではハイブリッド運用(NMTで一次訳 → LLMで調整や要約)が急速に増加中。

*選定の鍵は、用途・品質要件・セキュリティの3つのバランスをどう取るかです。

2. 長文を簡潔にまとめる方法

AIを使うと、長い文章を短くまとめるのが簡単になります。

基本的な要約のプロセス

「簡潔に要約して」と指示するだけでも要約できますが、なかなか思うような要約文が生成されません。もう少し、明確に指定する方法を見ていきましょう。

(1) ゴールと読者を明確にする

  • 要約の目的:経営層の意思決定/学習用メモ/SNS 投稿など。
  • 読み手の前提知識:専門用語の有無・関心度・必要な粒度。

*ゴールと読者像を冒頭で伝えると、冗長な説明や過度な省略を防げます。

プロンプトの例:
あなたはビジネスアナリストです。目的は経営陣への報告。専門用語の説明は不要。200語で…

(2) 構造を把握し、要約設計を立てる

  1. 段落・章ごとの論点を抽出
  • Abstract」「結論」「見出し」はまず拾う。
  • 各章のはじめと終わりの Topic Sentence をマーク。
  1. クラスタリング
  • 抽出した論点を35のテーマに束ねる。
  1. 優先順位付け(MUST/SHOULD/NICE
  • 経営層ならROIやリスクがMUST。詳細データはNICE
人間がまず文章を読んで、「どんな論点があるか」をリストアップしてから、そのリストをAIに渡すと、分析や要約・翻訳などの結果の質が大きく向上します。

(3) AIプロンプトを段階的に設計する

1.分割要約:長文を安全に処理
プロンプトの例:
以下のセクションを120語以内で要約してください。
2.統合要約:分割結果を統合し、重複を除去
プロンプトの例:
要約A~Dに基づいて、200語のエグゼクティブサマリーを作成してください。
3.スタイル調整:読者別トーン/長さの最終調整
プロンプトの例:
丁寧な日本語に書き直して、箇条書きのスタイルを維持し、10文以内にまとめてください。


(4) 品質チェックとリライト

  • 数字・固有名詞の確認:桁を落としたり社名を変形したりすることがある。
  • 要約 vs 原文トレーサビリティ:見出し番号やページを付記すると後工程(翻訳・校正)が楽。
  • スタイルガイドとの整合:常体・敬体/語尾/用語統一。ユーザーのスタイルガイドプロンプトを併用。

(5) 翻訳との連携パターン

A. 先に要約後で翻訳
日本語要約英語翻訳 ⇒ 日本語の読者が確認後に翻訳して海外共有
B. 並列要約
原文日要約 & 原文英要約 ⇒ 双方へ同時配信/締め切りが厳しい場合
C. 先に機械翻訳要約
全文英訳要約 ⇒ 元言語が英文でアウトプットも英・和両方欲しい場合
注意:翻訳後に要約する場合、訳文の冗長さが要約効果を下げることがある。

実践用プロンプト例:
### システム指示
   あなたは要約のエキスパートです。
   ### ユーザー指示
   次の長文を3,000文字以内で読み込み、
   経営陣向けに要点を「背景・結論・要因・提言」の4見出しで整理、
   各見出し2行以内、日本語200字前後、数字は必ず原文準拠、
   その後に英語150 wordsの要約を併記。

3. 生成AI翻訳の活用法と注意点

生成AI翻訳とは、ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)を使った翻訳のことで、従来のGoogle翻訳、DeepLなどの機械翻訳(MT)とは異なり、文脈や目的に応じた柔軟な出力が可能です。

生成AIの活用場面
  1. 意訳・文体調整翻訳
    文芸・マーケティング翻訳などで、自然で表現豊かな訳文が必要な場合に活用。口語・敬語の調整も可能。
  1. 構造変換・要約翻訳
    複雑な原文を要約して訳す、あるいは翻訳しつつ構造をわかりやすく再構成する。
  1. マルチスタイル翻訳
    目的や読み手(ビジネス文/教育向け/SNS向けなど)に応じてスタイルを変更可能。
  1. 翻訳レビュー/比較
    複数の翻訳候補を出力させて比較検討したり、他の機械翻訳のレビュー用に活用。
  1. 翻訳支援・補助
    人間翻訳者のプロセス補助(例:言い換え候補の提示、部分翻訳の案出など)
注意点

生成AI翻訳は柔軟性が高い反面、以下のようなリスクや課題があります。

  1. 事実の誤り(ハルシネーション)
    原文にない情報を補完・創作してしまうリスク(特に専門的・技術的文書で注意)。
  1. 訳抜け・意訳過多
    本来訳すべき情報が省かれたり、原意が大きく変わることがある。
  1. 語調・文体のブレ
    敬語や専門語、文体が一貫せず、不自然になることがある。
  1. 用語の統一性欠如
    専門用語・固有名詞が一貫せず、品質が不安定。翻訳メモリや用語集との連携が弱い。
  1. 再現性の低さ
    同じ入力でも異なる訳が出ることがあり、運用上のコントロールが難しいことも。
実務で活用する際のコツ
  • 翻訳目的を明示したプロンプトで制御(例:「ビジネス向けに丁寧な語調で」「専門用語は保持して直訳」など)。
  • スタイルガイドや用語集を活用し、プロンプトに組み込む。
  • 重要文書には人間による確認・後編集(ポストエディット)を必ず行う。
  • 複数の出力パターンを比較し、最適な訳文を選択する。
実践用プロンプト例:
### システム指示
あなたはプロの翻訳者です。
### ユーザー指示
タスク:以下の英語の記事を、3分で読める日本語に要約・翻訳してください。
対象者:国内の経営陣。
口調:敬体(です・ます)、堅めのビジネス文体。
用語: {"capital expenditure":"設備投資","operating margin":"営業利益率"}
ルール:
1. 数字と固有名詞は原文のまま。
2. 原文にない情報を補わない。
3. パラグラフ構造を保持。
出力フォーマット:Markdownで段落ごとに「- 」で箇条書き。
原文:
<<<
(ここに原文を貼る)
>>>
追加で入れるとさらに安定する項目
  • 温度指定:temperature: 0.1 → 流暢性より忠実度優先
  • 長さ上限:合計文字数を400文字以内に抑えてください。
  • チェック指示:翻訳後、不明な用語をすべてリストアップしてください。
  • 国・地域バリアント:日本語の名前は JIS 1水準漢字を使用してください。

*必須3点(タスク・言語・読者)+品質4点(スタイル・用語・ルール・フォーマット)で7項目。これを外すと誤訳・用語ブレ・ハルシネーションが激増することがあります。

4. 実践:「ニュース記事の要約&翻訳」

それでは、実践のコーナーです。
実際にニュース記事をAIで要約&翻訳してみましょう。
プロンプトはご自分で考えてください。生成例を示しますが、おそらくこれと同じにはならないでしょう。

元のニュース記事(英語130 Words

Donald Trump’s sweeping tax and spending bill returns to the House of Representatives as a 4 July deadline approaches. The Senate narrowly passed the bill on Tuesday after over 24 hours of debate, with Vice-President JD Vance casting the tie-breaking vote. Now, House Speaker Mike Johnson aims for a Wednesday vote, though challenges persist. A previous House version passed in May by just one vote, and reconciliation with the Senate’s version is required. Despite Republican control of both chambers, internal party divisions complicate progress. Key disputes include the bill’s impact on the national deficit and proposed cuts to healthcare and social programs. The legislation aims to make Trump’s initial term tax cuts permanent. Trump urges the House to approve the Senate’s version unchanged, but opposition from GOP factions may derail those plans.
ChatGPTによる要約例(英語50 Words)

Donald Trump’s tax and spending bill, aiming to make his first-term tax cuts permanent, returns to the House before a 4 July deadline. Despite Republican control, internal divisions over the deficit and social program cuts threaten its passage. Trump urges adoption of the Senate version without changes.

ChatGPTによる翻訳(日本語)
※以下の日本語訳は、元記事(130 words)を要約した英語(50 words)に対する翻訳です。原文全文の翻訳ではありません。

ドナルド・トランプの税制・歳出法案が、1期目の減税を恒久化することを目指して、7月4日の期限前に下院に戻る。共和党が議会を掌握しているにもかかわらず、赤字や社会保障費削減を巡る党内の対立が可決を困難にしている。トランプは上院案を変更せずに採用するよう求めている。

うまくできましたか?
ここで息抜きに、実務用途とは別に、生成AIの柔軟性を体験するユニークな例として、「ニュース・バラエティ台本風変換」を試してみましょう。

プロンプト:
「この翻訳を基にして、ニュース・バラエティ番組で、芸人がコメントする台本を作成してください。」

ChatGPT

以下は、ニュース・バラエティ番組で芸人がコメントする際の台本例です。時事性を保ちつつ、視聴者に親しみやすくユーモアを交えた構成にしています:

【MC(アナウンサー)】
「続いてはアメリカのトランプ前大統領に関する話題です。
大統領時代に実施した減税を恒久化する法案が、議会で再び審議されていますが、共和党内でも意見が割れているようです。
トランプ前大統領は、“上院の案をそのまま通してくれ”と強く求めているとのことです。」
【芸人A】
「“そのままでいいから”って…冷やご飯温めずに出してくる親父かっ!(笑)」
【芸人B】
「いや~でもね、アメリカの法案って、日本のバラエティより揉めてるからね。収録前の楽屋かと思ったよ!」
【芸人A】
「共和党の中でもケンカしてるってことは、“トランプ派”と“トランプはちょっと…”派がいるってことやろ? 家族会議みたいやん!」
【芸人B】
「“財政赤字がー”とか言ってるけど、たぶん心の中では“これトランプに従ったら選挙どうなるんや…”って考えてるんやろな~。芸能界で言うたら、大御所に逆らえへんけどちょっと怖い、みたいな(笑)」
【MC】
「まさにアメリカ政治も一筋縄ではいきませんね。今後の展開に注目です。」

今回のまとめ

最後に今回の内容をまとめておきます。

  1. 生成AIは要約・翻訳・文体調整まで一括対応可能で、従来型機械翻訳とは用途と強みに違いがある。
  2. 要約は「目的・読者・構造・段階的プロンプト設計」が成功のカギ。
  3. 実務ではAIと人間のハイブリッド運用が品質と効率の両立に有効。

注意点:

  1. 生成AIは事実誤認や訳抜けのリスクがある。
  2. 専門用語・スタイルの統一が不安定になりやすい。
  3. 高品質な結果には明確なプロンプトと人の確認が不可欠。

AIの力を最大限に活かすには、ツールの特性を理解し、目的に応じて使い分けることが重要です。実践を重ねながら、精度と効率の両立を目指していきましょう。

次回は、いよいよ基本編の最終回です。
AIライティングの未来と、人間が担う役割」を解説します。お楽しみに!

小室誠一:Director of BABEL eTrans Tech Lab
https://www.youtube.com/@eTransTechLab

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