2020年6月号

中国の今年の経済政策に変動が起きている。年間成長率の目標設定を見送り、債務と財政赤字の拡大に踏み切った。成長率より雇用創出、企業の支払い能力維持、食料とエネルギーの確保そして家計所得の安定など民生の安定重視に舵を切り、そのためになり振り構わぬ大規模な財政出動に走っている。人民銀行も国債の大量消化その他の財政刺激策を補完するために緩和政策に動き、資金の直接投入のために新たな政策手段を創設するとみられている。経済成長率の設定見送りは指導部内で大きな物議をかもしたと観測されており、今後の内政面への影響が注目される。

台湾関係では、中国の反分裂国家法が制定15周年を迎えた。同法は「非平和的手段」による台湾独立派の弾圧を合法化した法律である。この機会に中国軍トップが台湾支配掌握のために必要であれば、軍事力を行使すると直裁に警告した。メディアは、平和的統一の実現が遠のいているとの中国側認識を示すと論評する。他方、台湾では蔡総統が圧倒的な勝利で再選を果たし、コロナ制圧にも成功し、米国の支援も強固で万全な状況にある。とはいえ、平和的統一の実現が遠のいていると認識する中国が今後どのような手を打ってくるか予断を許さない状況にある。

韓国は早期にコロナの感染拡大防止に成功し、そのために経済の落ち込みが他国に比べて少なく、第1四半期の経済は1.4%増とプラス成長を維持した。経済の落ち込み抑制要因として、都市封鎖の回避、大型財政刺激策の迅速な発動、予算支出の加速、半導体など戦略分野への融資強化、韓国銀行による金融緩和策、大手企業による人員削減回避努力などが挙げられている。今後の課題として、輸出依存型経済を取り巻く海外環境の厳しさが指摘されているが、主要輸出品である半導体への需要が世界的に好調であり、大きな救いとなるかもしれない。

北朝鮮による不正資金調達の手法のひとつが摘出され、その中核となっていたのが国営のFTBであることが確認された。工作員を使って多数のダミー会社もしくはシェルカンパニーを創設して多額の資金を北朝鮮に環流させ、また核やミサイル生産に必要な物資を購入していた。これに中国のみならず、米欧の銀行が複数行関与していたことが注目される。米司直の手によって事件の全容が解明され、再発防止につながることに期待したい。

東南アジア関係では、シンガポールの銀行が混乱の続く香港から逃げ出した資金の受け皿として注目されている。4月にシンガポールの銀行にある外貨建て預金が過去1年間に約4倍も増加した。香港がアジアの金融ハブとしての地位を後退させるなか、シンガポールがセーフヘイヴンとしての役割を増しているといえるが、シンガポール当局はライバルの金融センターの混乱に乗じるという印象を避けるため資金流入の実態を公開していない。また、これには中国を怒らせないよう神経を使っている面もあるとメディアは指摘する。

インドのモディ政権は、早い段階で都市封鎖を命じるなど早期にコロナ対策に乗り出したが、経済が甚大な被害を受けたため、感染者が増加するなか経済の再開に踏み切った。メディアは、これを危険な状態だと懸念を表明し、政府に適切な対応を求めている。モディ政権は景気刺激策を発表しているがGDPの1.5%程度の小規模に止まっている。政府はさらなる経済のてこ入れをするか、都市封鎖の再導入などの経済活動の制限を再度強化するか重大な岐路に立たされている。