東アジア・ニュースレター 中国

☆ 経済のテコ入れに動く当局
中国国家統計局が発表した第2四半期のGDPは、前年比6.2%増と第1四半期の6.4%増からさらに鈍化し、ほぼ30年ぶりの低水準に減速した。こうした低迷する経済をてこ入れするため、政府は積極的な金融緩和策を打ち出した。中国人民銀行(中央銀行)は低利の銀行融資を行うため新たな指標金利を設け、次いで銀行の準備預金比率の引き下げを決定した。

まず新指標金利について8月22日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、20日に中国人民銀行は銀行融資の基準とされてきた貸出基準金利をLPRで置き換え、貸出基準金利より低く設定したと述べ、これは特に苦境にある小規模企業の借り入れコストの引き下げを目指していると報じる。まず今年に入り、李克強首相は国有大手銀行に対し新規融資の3割を低利の中小企業向けとするよう指示していたと述べ、しかし基準金利の引き下げとは異なり、銀行の新規融資の一部のみに関わるこうした措置は経済にわずかな影響しかもたらさないとコメントする。

またLPRについて、人民銀行は2015年以降基準金利を変更していなかったが、新LPRは毎月更新されるため、市場の金利水準の変化を反映しやすくなったと述べ、貸し手は人民銀行の緩和政策に一段と迅速に反応できるとみられると指摘する。LPRの算出には18行が優遇顧客に提供する融資の平均レートが用いられると述べ、銀行の優遇顧客向け1年物融資は、これまで人民銀行の貸出基準金利を用いて設定されており、人民銀行が15年10月に貸出基準金利を4.35%に引き下げて以降1年物LPRは4.30%近辺で推移してきたが、人民銀行のデータによると、20日に新たな1年物LPRはそれらを下回る4.25%で設定されたと報じる。さらに記事は、国海証券のエコノミストは「貸出金利という意味では金利引き下げではあるが、下げ幅は間違いなく極めて小さい」と語り、同氏は1年物LPRが最大25BP引き下げられ、約4%になると予想していたと伝える。

記事は最後に、世界的に景気が減速するなか、複数の主要中央銀行が利下げに踏み切っているが中国はそうした措置を手控え、今回のような迂回的な利下げ策を講じた背景について、正式の利下げは強すぎる緩和シグナルとなって不動産バブルを助長し、債務比率を押し上げかねないと中国政府は懸念したためだと述べ、人民銀行の劉国強副総裁は、この改革によって金融政策の実効性が向上し、借り手は緩和措置の恩恵を受けられるとの認識を示したと伝える。

次いで人民銀行は、銀行準備預金の比率を引き下げて大量の資金を市場に供給する。9月6日付ニューヨーク・タイムズは、米国との貿易戦争がエスカレートし、対内的には債務依存の危険が増すなか、人民銀行は16日より準備預金比率を0.5%引き下げると発表。これにより9,000億元(1,260億ドル)の資金が金融システムに注入されることになると報じ、しかも貿易戦争によって国内経済が打撃を受けるようであれば、融資の窓をさらに開くつもりのようだと伝える。記事は、小規模私営企業向けの融資促進のため銀行によっては準備率がさらに引き下げられると述べ、また人民銀行幹部は、インフラ計画向けの資金を調達する地方政府への規制緩和拡大を示唆していると伝える。

人民銀行がこうした措置を打ち出した背景について、営業継続が困難となった企業の増加、失業率の上昇、日常家計費の負担増を挙げ、人民銀行は企業向け融資を促進し、地方政府に借り入れを促すことで経済成長を刺激したいと考えていると解説する。その一方で、中国経済の規模からみてこの程度の対策では不十分だと指摘し、中国の政策対応は後追いとなる傾向があり、今回の施策は経済の減速を食い止めるには、余りに手ぬるく、小出しに過ぎるとのマケリー・グループのエコノミストのコメントを紹介する。同氏は、2020年の経済成長率を当初の6%から下方修正すると語っているが、別のエコノミストは5.5%と見積もっていると伝える。

記事は最後に、中国政府は長い間経済が低迷すると国が管理する銀行制度を通じて経済に資金を溢れさせてきたが、専門家はこうしたやり方は国の債務増大に伴い奏功しなくなったと警告し、それでは私営企業のような経済の最も重要で生産的な部門に資金が流れないと指摘していると報じる。また業界専門家は、政府は銀行に対して資金コストは変わらないが、リスクは大きくなる融資を実行せよといっているに等しく、銀行には、政府の言に従うインセンティブが全くないとコメントしていると伝える。

以上のように政府は、人民銀行の政策金利の一つである貸出基準金利を新たな指標金利であるLPRで置き換え、LPRをこれまでの貸出基準金利より低く設定して実質的に銀行向け貸出金利を引き下げた。狙いは、小規模私営企業向けの融資金利の引き下げにあるとされる。同時に人民銀行は、一般銀行が人民銀行に預託を義務づけられている預金準備金の比率を引き下げて、金融システムに大量の資金を供給する措置も打ち出した。しかし専門家は、経済の減速を食い止めるには余りに手ぬるく、小出しに過ぎると批判し、さらに銀行制度に大量の資金を供給するやり方は国の債務増大に伴い奏功しなくなったと警告。私営企業のような経済の最も重要で生産的な部門に資金が流れないと指摘していると報じる。米中貿易戦争の行方と共に政府、人民銀行の舵取りを引き続き注視したい。