2023年11月17日号

中国経済はデフレから脱却したかにみえたが、10月に物価が下落しデフレに逆戻りしたとメディアが伝える。10月の消費者物価は0.2%下落し、政府目標3%増をはるかに下回ったうえにコア・インフレ率も0.6%と9月の0.8%から鈍化。輸出は10月に6ヶ月連続で減少し、製造業活動は予想外に縮小した。エコノミストは、物価下落による債務の実質価値上昇のために消費者がローンを踏み倒したり支出を抑制したりするデフレの罠に陥るリスクの可能性を指摘するが、多くは景気刺激策の強化でデフレの長期化を回避できると考えている。しかしデフレ圧力の継続を警告するものもおり、理由のひとつに米国主導の西側諸国による中国のサプライチェーンへの依存度引き下げ努力や欧米中央銀行の引き締め政策による消費者需要の低迷とそれに伴う中国の輸出落ち込みを挙げる。

台湾政府は半導体の覇権を「シリコンの盾」として執念をもって守る決意を固めており、このため最先端技術は台湾にとどめる方針とみられるとメディアは報じる。しかし各国も様々な手段を講じて半導体産業の育成発展に努めていると伝える。米国は自国にチップ製造を呼び戻そうと500億ドルの補助金を支出し、欧州にも同様の計画があり、中国は技術輸入に頼らない独立したチップ産業の構築を考え、日本はエレクトロニクス企業の合弁会社ラピダスによる最先端チップ量産を目指している。台湾積体電路製造(TSMC)の主なライバルである韓国のサムスンも最先端チップの生産開始を計画していると報じる。チップが他の場所で作られるようになれば、台湾の「シリコンの盾」は脆くなり、台湾にとっての賭け金は大きいと警告する。

韓国で国論の2極化が進んで抗議活動が多発しており、右派と左派の対立が先鋭化している。抗議活動の大部分はソーシャルメディア、特にYouTubeを利用して行われている。左派は若い進歩派が多く、デモの趣旨は尹政権の反フェミニズム、反ジャーナリストとみなす政策、昨年秋の群衆圧死事件、福島第一原発から放射能処理水を放出した日本との関係改善の動きへの批判などである。右派は教会に通う人々や高齢の市民が主流で「親北朝鮮の共産主義者」から尹氏と韓国を守るために結集している。尹大統領はYouTubeのようなチャンネルを利用して自分の主張を広め、年配の人々を集会に引き寄せている。韓国の抗議活動は、世界の多くを席巻しているポピュリズムの要素を共有している。

北朝鮮の金総書記はトランプを生き延び、制裁を生き延び、パンデミックを生き延びてカムバックしたが、それは北朝鮮が分断されつつある国際秩序の恩恵をいかに受けているかを物語っているとメディアが報じる。しかもコロナ時代の対外規制の緩和によって北の近隣諸国との往来が再開され、西側による北朝鮮の核兵器開発の中止、減速を求める努力が奏功しにくくなったとのアナリストの言を伝える。またパンデミックを権力掌握の強化にも利用し、体制ははるかに安全になったと指摘する。そのうえで、「われわれが目にしているのは、金総書記が自分で道を切り開いていることであり、それは外交政策の根本的な改革である。新たな冷戦の話を非常に素早く受け入れ、どちらかの味方を選び、そして今、その代償を受けている」との見方を紹介する。問題は、日米韓を含む西側諸国がそうした北朝鮮の動き、特に核ミサイル開発を中止、減速させる手立てを失いつつあることだろう。西側諸国は新たな挑戦を突き付けられている。

東南アジア関係では、米国の金利上昇によって対ドルで東南アジア通貨が急落し、これに最近の原油高と関係が深い中国経済の低迷が加わり、ドル高、中国経済の弱体化、原油価格の上昇の3重苦が東南アジア経済を襲っているとメディアが伝える。特にマレーシアとタイ経済が通貨下落で苦しんでおり、中国経済へのエクスポージャーが大きいマレーシアのリンギットは中国人民元と共に下落している。タイは通貨安に加え為替変動が激しいため、輸出企業は通貨安の恩恵を受けにくいと懸念されている。インドネシアでは通貨安は石炭採掘業やパーム油生産業などの輸出企業を助けるが、貿易黒字は今年減少傾向にあり、ルピアの下支えをしていない。ベトナムは輸出に対する世界的な需要が伸び悩み、経済を支えるため中央銀行はアジアで初めて利下げを実施している。ただしメディアは、東南アジア域内の国際収支は総じて健全で外貨準備も短期的な資本流出を緩和するのに十分な規模だと伝える一方で、原油価格の上昇地が地域経済に重くのしかかる可能性があり、アジアの中央銀行がタカ派に転じるリスクがあると指摘する。

インドではカースト制度は憲法によって否定されているが、なお生活に深く根付いている。こうした社会的弱者への優遇制度として留保(クォータ)制度が設けられ、1990年代にダリット(不可触民)や他の後進カーストへの恩恵が拡大された。しかし今般、北インドのビハール州内で実施されたカースト国勢調査によって、この留保制度の基礎となっている「後進」カーストの割合が、これまでの推定値よりも高いことが判明し、大規模なクォータ制の設置を求める声が全国的に広まった。ビハール州の与党は「後進」グループへの公共職の割合の引き上げを、有力野党の国民会議派は、中央政府による全国的なカースト国勢調査の実施とクォータ制の調整を要求し、州議会選挙で勝利すれば有力各州で国勢調査を開始すると宣言した。メディアは、こうした動きはモディ首相と与党が覆い隠そうとしてきたヒンドゥー教社会の亀裂を浮き彫りにしたと指摘する。