中国の偵察気球が米国領空に侵入し、米空軍がこれを撃墜した。中国政府はこの気球が同国の偵察気球との米国の主張を否定しているが、米軍は声明で撃墜した気球の残骸から情報収集に使われた可能性のあるセンサーなど、電子機器を回収したと発表した。この事件は米中対立の新たな火種になるとして主要メディアも活発に報道、論評しており、その論調の概略をいくつか紹介した。
メディアが、台湾をめぐる戦争では台湾が勝利するとシンクタンクの図上演習の結果として報じる。ただし米国と台湾に破滅的な被害が出ると述べ、台湾は電力などの基本サービスが破壊されて荒廃し、米軍にも膨大な犠牲者が出ると指摘する。しかも台湾勝利には前提条件があり、関連した問題点として台湾の徴兵制と兵器の準備態勢が不十分、米軍の攻撃型潜水艦と長距離対艦ミサイルの不足、80歳を超えた米大統領の対処能力への懸念などを挙げる。ただし、多大な犠牲を払っても米国は信頼に足る世界の強国としての地位を守る必要があると述べ、台湾侵攻は敗北に終わることを中国に悟らせるために資金とエネルギーを注ぐべきだと主張する。こうしたシンクタンクの予想は、台湾攻防をめぐって米台陣営が抱える問題点を指摘するという意味でも参考になろう。
韓国では人口動態の危機が年金制度を襲い、年金基金が2055年に枯渇する見通しとなった。生産年齢人口は2021年には全人口の71.1%だったが、政府統計によると2050年には51.3%に減少すると予想されている。またエコノミストによれば、労働市場は人口動態の課題に加えて高齢者、若者、女性の不完全雇用によって損なわれているとみられている。財政状況悪化により年金改革の必要性が指摘されているが選挙が目前に控えており、政府がすぐに仕組みを変えるのは難しいとメディアは報じる。政治的にデリケートな問題かもしれないが政府の長期的な見地からの取り組みに注目したい。
北朝鮮系の犯罪組織が暗号資産市場において活発だが人目につかないように活動しているとメディアが報じる。具体例として、昨年夏に暗号資産プラットフォーム、ホライゾン・ブリッジから1億ドルの暗号資産を強奪した例などを挙げ、しかもトルネード・キャッシュやレイルガンなどと呼ばれる暗号資産の取引痕跡を消し去るミキシングサービスを使って犯罪を見えに難くしていると述べ、こうした犯罪的なサイバー操作によって集められた資金は、ミサイル計画資金の最大で3分の1を賄うのに役立ったと指摘する。ただし犯罪組織が取り扱う資金規模が大きくなり、取引の隠匿が難しくなっているようだとも報じる。犯罪資金がミサイル計画の最大で3分の1を賄っているという警告は深刻に受け止める必要がある。
東南アジア関係では、インドネシアがニッケル鉱石の輸出禁止によってニッケル製品の輸出額が急増した成功体験から、アルミニウム原料のボーキサイトや銅、錫、金などの輸出禁止も考えていると報じられている。メディアは、こうした全面的な資源ナショナリズムの動きは賢明でないと批判し、理由として2014年に実施した金属輸出禁止令によって、ボーキサイトの対中輸出量に占めるインドネシアのシェアは60%から現在の15%に激減したこと、ニッケル製錬所の誘致に様々な優遇措置が必要となり、ボーキサイト精錬所誘致の場合はもっとコストがかかること、中国からの資本導入が必要となり、中国人と現地人労働者との間に紛争発生の可能性があること、そして世界の貿易ルールに抵触する危険性などを挙げる。
インドが中国のライバルとして台頭することが、米国のアジアにおける問題を解決する上で重要であり、それにはインド経済の成長が欠かせないとして、具体策として製造業の発展の必要性を指摘し、米国はインド製品に対して市場を保証すべきだとメディアが提言する。インドの地政学的な重要性はしばしば指摘されるが、具体策として製造業の育成支援を提言しているのが注目される。