2019年6月21日号

――東アジアのビジネスに関心のある方のための情報誌――

(毎週金曜日配信    計 4 回総集編)

執筆:前田高昭  (国際金融ジャーナリス)

中国が、保有する米国債の売却に動き出した。ただしメディアの一部は、中国が保有する米国債を対米交渉上の武器もしくはカードとして使うのは困難だと論じる。理由として、金融の世界で圧倒的地位を誇る米国債の特異性、米国債イールドに与える影響が軽微、米国債売りに伴う元高の問題、米国債に匹敵する債券市場が世界に存在しないことなどを挙げ、さらに中国自身が覇権国、米国に挑戦するために必要となる開放性、透明性、法の支配などの条件を満たしていないと指摘する。

台湾ドルが3年ぶりとなる急激な下落に見舞われている。米中関係の緊張により外国投資家が台湾株式の売却に動くなど台湾から資金を引き揚げていることが背景にある。台湾の輸出の40%が中国と香港向けであり、アジアで最も米中貿易戦争の被害を受け易いグループに入り、台湾ドルも大きく下落、その流れは当面変わらず、対米ドルで31.6から31.8台湾ドルが攻防ラインとみられる。

最近、韓国経済が不振に陥っている。第1四半期の経済成長率は前四半期比0.4%減と世界的金融危機後で最悪の落ち込みを記録した。理由として、輸出依存の経済が米中貿易戦争などのために厳しい環境におかれていること、財閥依存体質の改革と所得格差の是正や小規模企業の救済を主眼とする文政権の経済政策が挙げられているが、政府は経済構造の改革路線を変更する意図はないと明言し、追加的景気刺激策の検討を約している。

北朝鮮が干ばつを理由に国連や韓国に対して人道支援を求めている。韓国政府は早速支援に動き始めているが、一部メディアは北朝鮮の意図について疑問を提起し、北朝鮮は制裁解除を実現するため、制裁が人々を苦しめていることを示そうと躍起になっていると批判する。また北朝鮮による食料輸入は制裁の対象外となっており、こうした抜け道を北朝鮮は巧妙に利用しようとしているともみられる。

東南アジア関係では、タイで新政権が発足した。5年ぶりの民政移行となるが引き続き親軍派が政権中枢を担い、軍の政治への影響力が維持された。新政権は選挙の洗礼を浴びて誕生したとはいえ、選挙自体に操作疑惑が指摘されており、メディアは、新政権は民主主義と軍政とのハイブリットだと評する。また連立政権であり、軍政時代と異なり政局は一段と不安定を増すとみられている。

インド準備銀行(中央銀行)は政策金利を0.25%引き下げて5.75%とした。利下げは今年に入り3度目で、政策金利は2010年以来の低水準となった。背景に経済の低迷がある。昨年の経済成長率は7%を切り、今年第1四半期の成長率も6%台を下回った。失業率も6%超と危機的水準に上昇している。こうした経済の不振は、米中関係の緊張の高まりが一因と指摘されているが、再選されたモディ政権にとって経済への取り組みが喫緊の課題となった。