バベルスタイル「古典創訳マニフェスト」

バベルスタイル「古典創訳マニフェスト」 ――翻訳と創作のあいだに、新しい「知」を生み出すために――

序文

古典とは、時代を越えて問いかけ続ける「生きた言葉」である。
私たちはそれを過去の遺産として保存するのではなく、現代の文脈において再び息づかせる。
この営みを私たちは「創訳(Creative Translation)」と呼ぶ。
それは、翻訳でも単なる創作でもない。
原典を素材としながら、その本質を掘り起こし、現代語の中に再生させる創造的な知の再構築である。

原則10か条

1. 原典を素材として尊重する

古典は私たちの文化的基盤であり、軽々しく「題材」にしてよいものではない。
創訳は、原典を敬意をもって扱い、その時代・思想・文体を十分に理解したうえで始まる。
尊重とは、模倣ではなく「深く聴くこと」である。

2. パブリックドメインを活用する

創訳は知の共有財産としての古典に立脚する。
著作権保護期間を過ぎたパブリックドメイン作品を対象とし、
誰もがアクセスできるテキストを素材に、新たな価値を創出する。
自由な利用が可能だからこそ、創造の責任が問われる。

3. 表層ではなく本質をつかみ直す

原文の語句や文体をなぞるのではなく、その奥にある思想・構造・リズムを掘り下げる。
創訳とは、言葉の皮を剥ぎ、核にある問いを再び現代語で語り直す知的冒険である。

4. 現代語に再生する

古典の思想は、現代の言葉に宿してこそ生きる。
文語を口語に、韻文を散文に、あるいは映像や音声へ――
形式を変えても本質が伝わるなら、それは正当な再生である。

5. 文脈を現代社会へ接続する

古典の知恵は、現代社会の課題と響き合う。
創訳は、過去の言葉を単に再現するのではなく、
今の時代の読者に届く「問い直し」として提示する。

6. 形式を自由に変換する

詩を短編に、物語を脚本に、論考を漫画に――
創訳は形式の越境を恐れない。
ジャンルを横断することで、古典が持つ普遍性を新たに発見する。

7. 比較と融合で新知を拓く

西洋と東洋、古代と現代、文学と科学――
異なる時代・文化・分野を横断し、
比較・融合の中から新しい視点を見いだす。

8. 行動知へ転換する

創訳は、読んで終わるものではない。
古典の知を実践に生かし、教育・芸術・社会活動など、
現実の行動へとつなぐ「行動知」として再生する。

9. 翻訳と創作の「あいだ」で新作を生み出す

創訳は、翻訳の厳密さと創作の自由のあいだに立つ。
その緊張関係こそが、まったく新しい作品を生む原動力となる。
そこに立ち現れるのは、「再解釈」を超えた「再創造」である。

10. 古典を未来へ渡す知の再創造とする

創訳の最終目的は、過去を懐かしむことではない。
未来の読者へ、古典が持つ普遍的な知を渡すことである。
創訳とは、時代を越える橋を架ける知の継承運動なのだ。

 

バベルスタイル「古典創訳」は、
翻訳者・作家・教育者・研究者・読者のすべてが参加できる知の再創造運動である。
古典を素材に、現代を映し、未来を描く。
その一文一文が、人類の知をもう一度「生きた言葉」として蘇らせることを願って。

*マニフェスト=創作運動や思想体系の基本原理を明文化した「理念宣言」