いまこそ、翻訳の意義と価値を見直すときでは ― 安易な英語化は日本を滅ぼす?!

米国翻訳専門職大学院(USA)副学長 堀田都茂樹

昨年8月に内閣官房管理下のクールジャパンムーブメント推進会議が「公用語を英語とする英語特区をつくる」という提言をしました。これに対して、九州大学准教授の施光恒(せてるひさ)さんは、英語化は日本人の愚民化政策と批判しました。 また、夏目漱石は「英語で行っていた明治初期の教育は一種の屈辱であった」とまで言ったと言います。 経済学者水野和夫氏は、英語を使えるかどうかで国民に分断を持ち込み、格差社会化を進展させ、日本国民の一体感も失わせると言います。 津田幸男氏は英語化の進展は世界を不当な、英語圏諸国を上層に置く英語支配の序列構造のもとに落とし込んでしまうと主張しています。 前号で触れたように、文部科学省が大学に文化社会学部、教養はいらないから職業訓練校にしろというのも、日本人を英語支配の序列構造の最下層の沈黙階級へ貶めるものと言えそうです。 また、2018年からの小学5年生に対する英語教育導入の周辺には、会社内の公用語の英語化と並んで、グローバル化の方向性をややはき違えている議論がまかり通っているように思います。 日本が経済力、技術力、文化力、社会力で世界のトップレベルに至ったのはなぜなのか、この機会に改めて、我々が持つ文化遺産(日本語、日本文化、翻訳)を見直してみたいと考えます。 おかげさまの認識が足りないと言えないでしょうか。ここで先人から受け継いだ知的資産について考えたいと思います。 翻訳文化、‘方法翻訳’という資産
・6,7世紀から中国文明を消化、吸収するに中国文化を和漢折衷で受け入れ、真名、仮名、文化を作り上げ
・明治維新以降、先人、福澤諭吉、西周、森有礼等々が、西欧文化、技術、制度、法律等、日本にない抽象概念を数々の翻訳語を創って受け入れてきた実績
・そして、ロシア文学をはじめ世界中の古典を翻訳で読める稀有な国、翻訳大国日本 日本語、日本文化という資産
・50万語という世界一豊かな語彙をもつ日本語。英語は外来語の多くを含んでの50万語、ドイツ語35万語、仏語10万語。言霊の幸はふ国日本
・古事記、日本書紀、万葉集など、1000年前文献を読める日本。英米では古代ギリシア語、ヘブライ語が読めないと当時の作品は読めない
・世界200の国、6,000以上の民族、6,500以上の言語の内、50音の母音中心に整然と組み立てられ、・平仮名、片仮名、アルファベット、漢数字、ローマ数字等多様な表現形式を持つ稀有な言語、日本語
・脳科学者角田忠信が指摘しているように、子音を左脳、母音を機械音、雑音と同じ右脳で処理、また、小鳥のさえずり、小川のせせらぎ、風の音をノイズとして右脳で受けている西欧人。対して、子音、母音、さらには小鳥のさえずり、小川のせせらぎ、風の音までも言語脳の左脳で受け止める日本人
・ユーラシア大陸の東端で、儒、仏、道、禅、神道文化を発酵させ、鋭い感性と深い精神性を育んできた日本
・「日本語の科学が世界を変える」の著者、松尾義之が指摘しているように、ノーベル賞クラスの科学の発明は実は日本語のおかげ しかし、一方で、榊原英資氏はその著「日本人はなぜ国際人になれないのか- 翻訳文化大国の蹉跌」で翻訳によって日本人の国際性が削がれたと主張します。しかし、日本はそれ以上に余りある資産を翻訳によって手に入れたはずではないでしょうか、 経済大国
文化大国
社会大国
科学大国
そして、東洋思想の集積地として
するどい感性と
深い精神性を獲得した日本人 こうして翻訳立国を果たしてきた我々は、先人が作った‘方法翻訳’を明らかにし、英語化を云々する前に、翻訳のプロフェショナリズムを確立することが先決ではないでしょうか。 バベルはこの41年にわたり、翻訳のプロフェショナリズムを確立するために以下に専念してきました。それは、 1. 翻訳者の資格の確立―各種翻訳能力検定の実施
2. 翻訳会社の翻訳品質管理と経営の技術の標準化
3. 翻訳高等教育(翻訳専門職大学院)の確立と翻訳教育専門の品質認証(Professional Accreditation)の準備
本年4月24日に発行されたEU発の翻訳の世界規格、ISO17100の検討会議で、翻訳立国、翻訳大国である日本に翻訳の大学、学部がないというので恥ずかしい思いをしているのは私だけではないでしょう。 こうして翻訳のプロフェショナリズムを確立し、翻訳者、更には通訳者を自在に活用できる環境をつくることです。大事な場面では中途半端な英語を使って臨むより、プロの翻訳者、そして通訳者を活用すべきです。 英語の公用語化という無意味な施策はいりません。100年たっても日本人同士が無意味に英語で会話をする光景は現れないでしょう。 私はむしろ、日本語と英語を大事にして、英会話教育ではなく、‘教育的翻訳’を、そして‘教育的通訳’に取り込むべきであると考えています。 ‘教育的翻訳’というと馴染みがないと思いますが。 教育的ディベート(Academic Debate)をご存知でしょうか。バベルでも90年代に約10年間、米国のディベートチャンピオンとコーチ(教授)を日本に招請して、日本全国での教育的興行を全面的に後援しておりました。日本語と英語でディベートを行い、ディベートの効用を謳ってきました。当時は、松本茂先生(バベルプレスで「英語ディベート実践マニュアル」刊行、現立教大学経営学部国際経営学科教授、米国ディベートコーチ資格ホールダー)、故中津燎子先生(「なんで英語やるの?」で大宅壮一ノンフィクション賞受賞)にお力添えをいただいておりました。 ‘教育的ディベート’とは、論理構成力を涵養する教育の手段としてディベートの手法を活用しようという考え方でした。 従って、ここで私が言う、‘教育的翻訳’では、プロ翻訳家の養成という意図はありません。ここでは理解していただくために、そのわかりやすい例をお伝えします。 私が前職(JTB外人旅行部)からバベルに転職したときのバベルの面接官が、当時教育部長をされていた故長崎玄弥先生でした。長崎先生は海外に行くこともなく、英語を自由に操る天才的な方でした。当時は奇跡の英語シリーズで100万部を越えるロングセラーを執筆されておりました。その面談では急に英語に切り替わって慌てた覚えがあります。その長崎先生と翻訳に関するある実験的な試みをしました。 当時、中学の1,2年生を7,8人募集して、中学生に翻訳(英文解釈、訳読ではない)の授業をするという試みでした。週に2,3回、夕方を利用して、かれらに英米文学(ラダーエディション)の翻訳をさせたのです。詳細は置くとして、それから約1年後は、なんと彼らの英語、国語、社会の成績が1,2ランク上がったのです。英語の成績が上がるのは当然としても、社会、国語の成績が上がった時は、翻訳という教育の潜在力を実感したものです。あれから20余年、‘教育的翻訳’を考えるに時が熟して来たと感じています。 現在の英語教育では、文法訳読形式が否定され、コミュ二カティブな英語教育が推進されるなか、その実効性が上がらないのを目の当たりにして、明治時代以前の教育にも見られる「教育的翻訳」の必要性をうすうす感じているのは私だけではないのかと思います。 また、コミュ二カティブな英語力を涵養するのに‘教育的通訳’が有効であることを、バベルでの企業人向け語学教育のなかで実感してきました。
これは後に、上智大学の渡辺昇一先生(現上智大学名誉教授、書籍「知的生活の方法」で一世を風靡)が、その実効性を検証する大部のレポートを発表されておりました。 話が横道に逸れてしまいましたが、この‘教育的翻訳’の普及が、母国語と外国語の習得、異文化理解、異文化対応、深みのある文化の熟成、感性の涵養等に役立つと確信します。 そして、ここに‘教育的通訳’を付加することによって、いわばゲーム感覚で口頭の言語能力(日本語・英語)が涵養されてくると考えます。 そしてこうして培った能力には、 日本語、日本文化という、自文化に対する相対化力
    と
英語、英語文化という異文化に対する包容力
    と
そして、異文化に対するしたたかな対応力
    と
文化の熟成と深み が備わっているように思います。
これらが、翻訳という行為がもたらす学習効果と考えます。 翻訳とは、自らの文化を相対化し、相手文化を尊重し、自立したふたつの文化を等距離に置き、価値の等価変換をする忍耐力を伴う試みだからです。 私がグローバル化は単なる英語化を越えるべきと考えるのはそのためです。 更に言えば、施光恒が主張するように、日本は、途上国が現地の言葉を使って近代化するための援助をしていくべきであると考えます。 日本は非欧米圏で初めて科学技術などを翻訳して近代化できたわけで、今のグローバル化=英語化と違う近代化の手伝いこそ、これから日本が誇れる国際貢献となると確信します。 以上

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翻訳者意識’で世界を変える

米国翻訳専門職大学院(USA)副学長 堀田都茂樹

「世界が一つの言葉を取り戻す」 バベルと長いお付き合いの方はバベルの塔の神話をご存知のかたは多いことでしょう。 しかし、バベルの塔の神話の真のメッセージは必ずしも人間の傲慢を諌めることだけではないというところから出発したいと思います。 それは、20年以上前にオーストラリアの書店で見かけた子供向けの聖書に書かれた解釈でした。 神は、人が、ひとところに止まらず、その智恵と力を世界に広げ繁栄するようにと願い、 世界中に人々を散らしたという解釈でした。すると、かれらはそれぞれの土地、風土で独自の言葉と文化を育み、世界中に多様な言語と文化の織りなす地球文化を生み出したのです。 しかし、もともとは一つだったことば(文化)ゆえに翻訳も可能であるし、弁証法的に発展した文化は、常に一定のサイクルで原点回帰をしているので、ただ視点を変えるだけで、結局、同じことを言っていることが分かるのではないでしょうか。 しかし、人間のエゴの働きと言えるでしょうか、バベルの塔のころからの傲慢さゆえに、自文化が一番と考えることから抜けきれないでいると、もともと一つであるものでさえ見えず、理解できず、伝える(翻訳)ことさえできなくなってしまうのかもしれません。 翻訳の精神とは、自らの文化を相対化し、相手文化を尊重し、自立した二つの文化を等距離に置き、等価変換する試みであるとすると、この過程こそ、もともと一つであったことを思い返す試みなのかもしれません。 「世界が一つの言葉を取り戻す」、それは決してバベルの塔以前のように、同じ言語を話すことではないでしょう。それは、別々の言語をもち、文化を背負ったとしても、相手の文化の自立性を尊重し、その基底にある自文化を相対化し理解しようとする‘翻訳者意識’を取り戻すことなのではないでしょうか。 バベルの塔の神話はそんなことまでも示唆しているように思えます。 ここに翻訳の本質が見えるエピソードをご紹介しましょう。 あるテレビ番組で、日本料理の達人がルソン島に行き、現地の子供の1歳のお祝いの膳を用意するという番組を観ました。おそらく番組主催者の意図は世界遺産となった日本料理が、ガスも、電気コンロもない孤島で通用するかを面白く見せようとしていたのでしょう。 この日本料理の達人は自らの得意技で様々な料理を、現地の限られた食材を使い、事前に現地の人々に味みをしてもらいながら試行錯誤で料理を完成させいくというストーリーでした。そして、最後は大絶賛を得られたという番組でした。 しかし、かれはその間、自ら良しとする自信作で味みをしてもらうわけですが、一様にまずいと言われてしまいます。しかし、何度も現地のひとの味覚を確認しながら、日本料理を‘翻訳’していくのでした。そこには自文化の押し付けもなければ、ひとりよがりの自信も見られません。ただ、現地のひとの味覚に合うよう、これが日本料理、という既成概念を捨て、日本料理を相対化し、自らのものさしを変えていくのです。 世界には7,000を越える言語、更にそれをはるかに越える文化が有るなか、翻訳者が翻訳ができるとはどういうことなのでしょうか。 翻訳ができるということは、もともと一つだからであり、
翻訳ができるということは、具象と抽象の梯子を上がり下がりできるからであり、
翻訳ができるということは、自己を相対化できるからということでしょう。
例えば、世の中には様々な宗教があり、お互いを翻訳しえないと考えている方が多いのではないのではないでしょうか。 しかし、誰しも翻訳者であると考えてみましょう。翻訳者という役割が与えられた時点で、自らの言語、文化を相対化する必要があります。翻訳する相手の文化を尊重し、自国の文化を相対化し、相手の国の人々がわかるよう再表現をする。 「翻訳とは、お互いの違いは表層的なものであり、もともとは一つであることに気づき、お互いを認め、尊重し合う行為である」と考えられるでしょう。 翻訳こそ、鋭い感性と深い精神性をもつ日本人(日本語を母国語とするもの)に適した役割でしょうし、‘翻訳的ものの考え方’、すなわち翻訳者意識で世界を変える、これを先導するのがバベルの使命のひとつであると確信しています。 以上

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2016年、丙申(ひのえ さる)の年は、2015年に地上に出た芽が、いよいよ勢いよく伸びる年です!!

米国翻訳専門職大学院(USA)副学長 堀田都茂樹

新年の平成28年(2016年)は丙申(ひのえ さる/へいしん)の年。数千年の歴史が生んだ易経から言うとどんな年なのか、私が約20年師事する東洋思想の泰斗、田口佳史先生は以下のように語ってくれました。 『一昨年の2014年は甲午(きのえうま)で新事業にしろ新体制にしろ、新しいことをスタートさせるべき年でした。昨年2015年は乙未(きのとひつじ)で、そのスタートさせた新しいことの芽が地上に出はしたが、世間の風は厳しくぐにゃっと曲ってしまった年。しかし目に見える芽は曲ってしまい、停滞の様に見えても、実は地下の根はその風に揺すぶられてかえってしっかりと強固になる、根が張って根本が出来た年です。 したがって今年(2016年丙申)は炳(あき)らかで「いよいよその芽が勢いよく伸びる年」です。丙の横棒一は陽気(発展拡大、外への働き)の一層の活発なる状態を表して、この流れは2017年の丁(ひのと)の横棒まで続きますから、今年、来年と発展拡大するチャンスです。』 では、バベルグループは何をしようとし、何処に向かっているのか、改めて皆様にお知らせし、パートナーの皆さまにもご協力をお願いしたいと思います。 ここで改めて、企業活動のグローバル化への進化の過程を点検してみましょう。
企業のグローバル化の4つのステージ
1.Domestic Stage
2.International Stage
3.Multinational Stage
4.Globally Integrated Stage 一般的に企業は、国内で作り、国内で売る、国内マーケットからスタートし、第2ステージでは、「海外で作・驕E海外で売る」、すなわち、本社にすべての機能が集約され、海外子会社が製造、販売等の一部の機能を担当するステージへと移ります。 そして、第3ステージでは「海外への権限委譲」が進み、本社には共通機能のみが集約され、自律的子会社が設立されることになります。 そして、第4、最終ステージでは、「地球でひとつの会社」、世界中で一番ふさわしい場所にそれぞれの機能を分散させ、最適地で経営資源を調達する段階となります。 バベルグループは1974年創立、来年で42年目を迎えます。そして、バベル翻訳大学院は米国で設立以来、まもなく16年を迎えることになります。 すでにご承知のように、日本では年間約18万社が起業するなか、1年で自主退場(倒産)するのが4割、5年で6割、10年で8割と言われます。そんな中、世界で100年以上の歴史をもつ企業が一番多い国はなんと日本なのです。2万社を越える企業が日本では100年存続しています。 企業がGoing Concernと言われる意味を改めて実感します。 そして、世界最古の企業は日本の金剛組、神社仏閣の建築をしている宮大工の会社です。創業したのが578年、聖徳太子の時代という大阪市天王寺区の「金剛組」は、今年何と 1437歳。日本国内どころか世界で最古とされる老舗企業です。 では100年続く組織、企業の条件、日本の100年続く企業の共通点はなんだと思いますか。それは2つあります。   1.信仰 ― Mission
  2.ゆるんだ組織 ― Resilient、「柔弱は剛強に勝る」 BABEL UNIVERSITYの信仰は東西融合、東(W)の文化と西(E)の文化を、翻訳を通じてつなぐということです。WEからEW(【ju´;】)へ、そしてYOUからWEへ。
世界の智を共有し、共に幸せになるということです。 翻訳を通じての東西融合、幸せつくり、バベルグループはこれをめざします。 バベルグループはそのために、自立した個々人の‘ゆるんだ’、ネットワーク型の組織を 選択しました。それは大企業、マンモス大学のような、丸抱えの発想から、自立した専門領域をもつ皆様とのパートナーシップのネットワーク、言わば、自立×分散×循環型のプロフェッショナルのグローバルワーキングネットワークです。  ◇ 大学院を中心とする循環型ビジネス
 ◇ 分散×集合型のビジネスプロジェクトネットワーク
 ◇ 世界に居住する大学院の人材が専門性を活かしてリモートワーキング それは、図式化すると以下のようなイメージになります。 babelgroup_s2 ここで、ある意味のさらに先端を行く企業をご紹介しましょう。今年最も注目すべき 企業として大前研一さんはまだIPOもしていないUberとAirbnbという、米シリコンバレーの染色体を持つ企業を上げています。両社とも、今年になってそのサービスがやっと世の中に知られ始めてきたばかりの新しい企業で、世間的には無名に近い存在だそうです。 “生まれた時から世界最先端”と言われる2つの企業を紹介しましょう。 米『Fortune』誌が記事に取り上げているスマートフォンのアプリを使ったタクシーやハイヤー配車サービス「ウーバー(Uber)」。創業後わずか5年でグローバル化した同社には、従来の企業が有していた「組織」や「経営システム」の概念は存在しないと言います。
http://bit.ly/1UHFHCp Uberは、まず「タックス・プラニング(法人税の仕組み、特徴、計算方法から合法的な節税計画を立てること)を全地球ベースで行い、法人税を最も軽減するためにはどうすればよいか、という観点から会社の仕組みを構築しているそうです。(もっとも、この点では 健全、適正な納税で国づくりに貢献することがむしろ本分であると我々は考えます) これまでのグローバル化は、日本企業であれば、まずアジア各国に展開し、次に米国そして欧州というように、段階を踏んで国別・地域別に現地法人を設立しながらネットワークを拡大していったわけです。しかし、Uberは、現地に子会社や代理店を作ると納税義務が発生してしまい、本社を置くオランダより割高な法人税を支払わなければならなくなるから、従来の組織は持ってないそうです。 また、Airbnbは、個人が所有する空き部屋を有料で貸し出す「民泊」をネット上で仲介する企業で、日本法人こそ置くものの、やはり支店や現地法人のような一般的な企業形態にはなっていないそうです。 同社は世界190カ国以上で事業を展開しているのに、日本語のウェブサイトにはブライアン・チェスキーという代表者名やアイルランドの首都ダブリンにある世界本社の住所と電話番号と問い合わせ先のメールアドレスが記載してあるだけで、日本法人の所在地や電話番号や代表取締役の名前の記載が見当たらないそうで、これが21世紀最先端企業の形と言えそうです。  http://bit.ly/1Mkzp4Y 海外販売に関しても、昔のように10年、20年かけて国別・地域別にコツコツと自前の代理店網を作っていく時代ではなくなりました。そんな悠長にしていたら、競合他社に先を越されてしまいます。 UberやAirbnbといった世界最先端企業は生まれた時から“本籍地:地球”であり、全ての機能について「地球上で最適化」を追究するという発想で構築していると言います。生まれてまもなく本社をアイルランドに移したり、製造をすべて中国企業に委託したり、研究開発や開発業務においてはサイバースペース上の人材を活用したりして全世界の制度と 機能と人をとことん使い、すべての業務を「地球上で最適化」しているという、米シリコンバレーのDNAを持った21世紀の世界最先端企業と言います。 バベルグループもUberとAirbnbのような世界最先端企業の仕組みをベンチマークして、来年は更に次のステージをめざして進化していきたいと考えています。 本年は、皆さまにお世話になりました。
ありがとうございました。 以上

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今、再びPlain Japaneseを考える

米国翻訳専門職大学院(USA)副学長 堀田都茂樹

先々月の翻訳編集に関する特集の際に標準となる日本語の必要性、日本語を外国語に翻訳する際も、日本語自体を標準日本語に日日翻訳してから英語化する必要性がある、といったことをお伝えしました。もちろん、英日翻訳においても、バベルの翻訳文法技法のみならず、スタイルガイドに加えて、標準的な日本語作成の技術は必要な技術となります。 バベルでは約25年前にPlain Englishというコミュニケーションのための機能的、Simple & Effectiveな英語を創るルールを作成したことはその際お伝えしました。標準日本語同様、これは英語を読み、書きするときはもちろんのこと日本語から英語に翻訳する際の、英語の標準として役立つものです。 ここで改めて、Plain Englishについて復習してみたいと思います。 Plain Englishとは1950年代にルドルフ・フレッシュが米国人に向けて提唱、その後、米国レーガン大統領、英国サッチャー首相もこれを支持し各界で反響を呼びました。議会でも対消費者に向けて簡潔明解な文章を書こうと、消費者保護の観点からもPlain Englishが推奨されました。また、Plain Englishは アニュアルレポート等、IR( Investor’s Relation)の分野においても、その必要性が謳われています。 バベルのPlain Englishでは、 4×4=16の基本ガイドラインを設けてあります。 1. COHESIVENESS(結束性)のルール
①コンテクストに合わせる
②論理的な順序に従う
③一貫性を保つ
④読み手、聞き手の気を散らさない 2. DIRECTNESS(直接性)のルール
⑤推測ではなく事実を記す
⑥主語を明確にする
⑦否定語は極力避ける
⑧結論を簡潔に記す 3. ECONOMY(簡潔性)のルール
⑨簡潔を心がける
⑩使用頻度の低い単語よりも使用頻度の高い単語を選ぶ
⑪従属節の使用を避ける
⑫一記述には一要点だけを論じる 4. APPROPRIATENESS(適切性)のルール
⑬誠実に礼儀正しく、他者に敬意を払う
⑭イディオムや俗語は避ける
⑮短縮形、くだけた会話体は避ける
⑯文法的に正しい文を用いる そして、この16のルールを
Word
Phrase
Sentence
Paragraph
それぞれのレベルで細分し、合計80のルールに分け、プロフェショナルにふさわしい英語ガイドラインを設けました。
Plain English購入はこちらから とすると、プレインジャパニーズのガイドラインはPlain English同様に、ノンフィクションライティングの分野において必要な基準と考えます。これにつきましては、約30年前に作家の岳真也先生に日本語の書き方、そして20年ほど前にバベル翻訳専門職大学院の教授の石田佳治先生を中心にプレインジャパニーズルールを考案いただきました。 先日、産業日本語研究会のシンポジウムに参加しましたところ、産業日本語をつくる試みが行われていることを知りました。
以下で産業日本語、日本人のための日本語マニュアルのこころみがご覧になれます。
http://ngc2068.tufs.ac.jp/nihongo/htdocs/ その主張の根拠は、日本経済がこの停滞を脱して世界に伍していくためには、日本語自体を機能化して、産業日本語の基準をつくり、機械翻訳にかけても精度の高い外国語になることをめざし、以って産業競争力をつける、という主張でした。 確かに、日本が世界に伍して世界のリーダーシップをとっていくためには、英語を公用語にするという愚策を考えるのではなく、日本語自体を機能的に整理整頓し、機械翻訳にかけても高い精度の訳文がつくれるような日本語にしていく努力は必要でしょう。また、これは日本語学習をしている日本語を母国語としていない方々にとっては素晴らしい学習素材となるでしょう。いわば、世界で通用する日本語を学ぶ機会となるわけですから。 バベルではこれまでのPlain Japaneseの開発経験を踏まえ、更にPlain Englishの技術を踏み台に、Plain Japaneseを翻訳の立場から再考したいと考えます。ここで言うPlain Japaneseは文学的な表現は含みません。従って、主にビジネスのコミュニケーションで必要とされる標準日本語、そしてその後は、目的別日本語としてTechnical Plain Japanese, Legal Plain Japaneseのルール化を進めていきたいと考えています。 そのねらいは、バベル翻訳専門職大学院(USA)として、外国語から日本語に翻訳する場合のLinguistic Reviewに活かすことと、また翻訳者が日本語から外国語に翻訳する場合、その稚拙なわかりにくい日本語の日日翻訳(リライト)の基準とするためのものです。これすなわち、機械翻訳にかけやすい日本語の表現技術ともなるのでしょう。 本誌でも4月より、このテーマを人工知能の成果等を踏まえて多角的視点で扱っていきたいと考えております。 WEB雑誌 The Professional Translator  3月10日号より

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グローバルに起業するノウハウ はじめに

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はじめに、
この度、『The Professional Translator』編集部から、海外に在住する翻訳者向けに海外で企業するノウハウについての記事を書いてほしいという依頼を受けました。これまで何度か本紙でグローバル翻訳市場について書いてきましたが、市場は刻一刻と変化しており、それに従って起業のアプローチも変わってくるのではないかと私は思っています。

今回の連載ではその変化を踏まえながら、これまでとは違った角度で市場を捉え、起業のノウハウについて考察していく予定です。もちろん、海外在住ではなく、日本に在住しており、海外の翻訳会社と取引をしてみたい読者の方にも役立つ内容にするつもりです。

ところで、私は現在トルコに住んでいますが、先月日本に帰国した折に、バベル翻訳大学院 (PST) の主催で行われた「アラムナイミーティング」と「学位授与式」に参加する機会を得ました。そこで何人かの修了生の方が自己紹介をされたのですが、PSTを修了されたのにもかかわらず、「まだ翻訳実務をこなす実力が伴っていない」と謙遜される修了生が何人かいらっしゃり、正直驚きました。PSTのカリキュラムは翻訳実務に沿っており、海外の他の翻訳大学/大学院と比較しても中身が濃い内容となっています。在学中の学生や修了生でしたらお分かりの通り、課題を最後までこなすのは本当に大変ですが、このカリキュラムをやり遂げれば、たとえ実務の経験がなくても、相当の実力がついているはずです。

翻訳業に必要なのは、「私はできる」という良い意味での開き直りです。「私なんかまだまだ」と思っているうちは、いくら起業のノウハウを読んでも仕事に直結しません。

昨年4月に発行された翻訳の国際規格では、翻訳大学/大学院の卒業生/修了生は、翻訳者としての資格要件を満たしています。それに、私も何度か修了生の方々と仕事をしたことがありますが、他の経歴を持つ翻訳者と比較して実力が高いと確信しました。PSTの修了生は名実共に翻訳の実力を認められているのですから、この連載を機に、グローバル翻訳市場でばりばり活躍していただきたいというのが、私がこの連載をお引き受けした理由です。

今回の連載では、
第1回 グローバル翻訳市場と日本の翻訳市場の違い
第2回 グローバル翻訳市場へのアプローチの仕方
第3回  翻訳会社(クライアント)の選び方
第4回 トラブルの回避とトラブルが発生した場合
を予定しています(いずれも仮の題です)。

今回は、読者の皆さんから起業や翻訳実務に関して予め質問を受け付け、連載の中で回答するという形式を採り入れたいと思います。また、個人的に質問がある場合もお受けします。『The Professional Translator』の発行日(毎月10日と25日)の10日前まで、上記のテーマについて質問を受け付けますので、この記事の下にあるフォームに記入し送信してください。

読者の皆さんと共に記事を作っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

また、7月26日(火)18:00~(日本時間)、このテーマに関して、日本翻訳協会主催でセミナーを実施する予定です。ZOOMで世界中から参加できます。
詳細は追ってお知らせします。

[box color=lgrey] ハクセヴェルひろ子

ハクセヴェルひろ子
大学卒業後、商社と金融機関勤務を経て、1992年トルコに移住。
2005年バベル翻訳大学院修了。翻訳修士。
2008年Proz.com Certified PRO認定。現在フリーランスで翻訳業に従事。

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「グローバルに起業するノウハウ」The Professional Translator特集予告!!

WEB雑誌 The Professional Translatorでは6月10日より全4回に亘り、新特集「グローバルに起業するノウハウ」をお届けします。 バベル翻訳専門職大学院(USA)の院生、修了生の居住地はいまや日本以外、世界30余か国、国籍も多岐に亘っています。まさに、このネットワーク構造は現在の縮図と言えるのかもしれません。  そもそも日本人とは、を考えてみればわかることで、日本国籍をもっているから日本人とはいいがたいわけで、米国では2重国籍の方は多くいらっしゃるわけで、つまるところ日本人とは、日本語を話し、義務教育を日本で受けてきた、というくらいにしか規定できないわけですから。  また、米国のように、EUも同様ですが、米国籍を持ちながら居住地を税制、婚姻制度等が有利な州に移り住むことが普通にあるように、働く、生活をする場を選ぶことが可能な時代になってくるはずです。  まして、リモートワーク、ノマドワークが普及していく今、Portable Occupationと言える翻訳者という仕事は、どこの地で働くか、どこの国のクライアントと取引をするのか、そのオプションは限りなく多くなっています。  しかし、オプションが多様ということはそれに伴うリスク、そして逆にアドバンテージも多くなるわけで、まさにその選択においては自己責任、自律が要求されます。  この特集を機会に、翻訳者として起業して、世界中のクライアントと取引をしていくときに伴うリスクをどう回避し、どう有利な取引関係を構築するか、日本とか一国に限定された思考法から一回離れて考えてみましょう。  今回、6月10日号より、バベルの翻訳大学院の修了生で、トルコで起業され、約10年グローバル環境で試行錯誤されてきたハクセヴェルひろ子さんに「グローバルに起業するノウハウ」と題して全4回の特集連載をお願いしています。  お楽しみに!! * 全4回の特集はこの大学院のWEB上のコーナーにも掲載します。

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– 副学長から聞く - 翻訳専門職大学院で翻訳キャリアを創る方法

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翻訳プロフェッショナリズムの確立―40年目の中間総括 2014

米国翻訳専門職大学院(USA)副学長 堀田都茂樹

バベルグループは40年、『翻訳プロフェッショナリズムの確立』を目標に歩んで来ました。
月刊誌『翻訳の世界』の刊行、各種翻訳技法、言語表現技法の開発、翻訳学習書の出版、 翻訳奨励賞・国際翻訳賞の実施、等で翻訳自体の啓蒙をはかり、翻訳教育を通信、通学で行い、卒業生を起用して翻訳会社、人材派遣・紹介会社を各地に立ち上げるなど、日本において翻訳ビジネスの業界を創り上げてきました。 しかし、‘志’は未だ半ば、また、志は我々だけで達成されるものではなく、翻訳者の皆様、翻訳会社様、クライアント様、また、翻訳団体、政府等が一体となって取り組むべき課題と認識しています。 翻訳のプロフェショナリズムを確立することで、翻訳を通じての日本独自の世界貢献、そして、‘翻訳の再立国’が叶うと信じます。すなわち、翻訳という行為は、コミュニケーションの齟齬による紛争の回避、異文化の交流による他者尊重の姿勢の涵養、更には、異文化の融合による新しい価値の創出、そして、ひいてはGross National Happinessの実現に 貢献するものと考えます。
今回は『 翻訳プロフェッショナリズムの確立 』と題して、バベルグループの40年を総括していきたいと思います。 なお、バベル翻訳大学院は(USA)は14年前に米国の連邦政府の品質認証を取得、世界で唯一のインターネットによる翻訳専門職大学院となりました。しかし、そもそもバベルが 40年前に日本でスタートを切ったこともあり、以下の原稿の視点は日本を起点にしていることをご了承ください。 それでは、まず、今回は皆様に翻訳界の‘課題’を共有していただこうと思います。

課題 提起

 世界がボーダレス、ひとつになる中、各々の言語を生かしつつ、情報の共有化を図り、世界を融和、相互発展させるには『 翻訳 』は欠かせない方法論と考えます。翻訳の重要性に 対する強い自覚をもつEUのような東アジア広域政府を待つまでもなく、これは自明のことでしょう。日本は‘翻訳立国’と言われて久しいにも係わらず、国家レベルの施策において翻訳の占める位置付けはあまりにも希薄としか言いようがありません。細やかなコミュニケーションスタイルをもつ日本人の特性を持ってすれば、多・双方向翻訳で『翻訳再立国』を果たし、東西、南北の橋渡しとなり、日本と世界との情報格差を無くし、その‘多・双方向翻訳力’を持って世界に貢献するという図式もあながち夢物語ではないと思います。  そのために、翻訳高等教育の在りかたに留まらず、日本において、国家レベル、さらには世界レベルの施策としての『 翻訳プロフェッショナリズムの確立』をここにバベルグループのミッションとして確認したいと思います。   日本は明治維新以来、福沢諭吉、西周、中江兆民をはじめ多くの啓蒙家が、西欧の文化、文物を‘和魂洋才’を念頭に急速に取り入れ、国家の近代化を果たしてきました。これは、換言すれば、‘翻訳’を通して当時の西欧の先進文化、文明を移入してきたと言えます。俗に、‘翻訳立国―日本’と言われる所以です。  六世紀から七世紀にかけて中国文化を移入したときには大和言葉と漢語を組み合わせて翻訳語を創り、明治維新以降は西欧の人文科学、社会科学等のそれまで日本にはなかった抽象概念を翻訳語として生み出してきました。Societyが社会、 justiceが正義、truthが心理、reasonが理性、その他、良心、主観、体制、構造、弁証法、疎外、実存、危機、等々、これらの翻訳語は現在のわたしたちには何の違和感もなくなじんできているのは承知の通りです。 翻って、この‘翻訳’の現代に占める社会的位置は、と考えてみると、不思議なくらい、その存在感が読み取れません。  もちろん、巷では、翻訳書を読み、政府、また企業でも多くの予算を翻訳に割いています。また、ドフトエスキー、トーマスマンをはじめ、世界中の古典文学を何の不自由もなく親しめる環境があるのも事実です。また、将来を展望しても、ITテクノロジーによる更なるボーダレス化を考えても翻訳は計り知れないビジネスボリュームを抱えています。 一説には、一般企業が年間に外注する翻訳量は金額に換算して、2000億円市場とも言われます。これに、政府関係、出版関係(デジタルを含む)、更にアニメ、マンガといったコンテンツ産業関連を加算すれば、優に、一兆円を越える市場規模になると言われます。 とすると、過去は言うに及ばず、今後、日本のビジネス取引、文化形成における‘翻訳’のはたす役割は、想像以上に大きいと言わざるを得ません。 日本では、(社)日本翻訳協会【当時労働大臣認可】が広く翻訳検定を実施し、その後、(社)日本翻訳連盟、等が検定試験を実施してきています。しかし、資格試験としての業界の認識は十分とは言えませんでした。また、翻訳業界では依然として翻訳実績が問われるのみで、大学、大学院などの学校法人での専門職の翻訳者養成はなされていません。民間の翻訳者養成学校に依存しているのが現状です。このような現状認識をふまえ、今後の日本の‘翻訳’の在るべきかたちを以下の6つの視点から、考えてみましょう。
  1. 翻訳業のプロフェッショナリズムは確立しているか。
  2. 翻訳の品質を保証する翻訳者、翻訳会社の生産能力の標準化はできているか。
  3. 翻訳者の資格認定は社会に定着しているか。翻訳会社の適格認証制度は構築可能か。
  4. 翻訳専門職養成の大学、大学院は存在しているか。
  5. 翻訳専門職のための高等教育機関のプロフェッショナル・アクレディテーションは実現しているか。
  6. 翻訳教育においての翻訳教師養成の必要性を認識しているか。

将来の日本が‘翻訳’を支えに、東西融合、南北融合に向けてその役割の一端を果たすことを念頭に、以下の海外の事例と比較することにより、その課題がより鮮明に見えてきます。 1. オーストラリアでは、連邦政府が、翻訳者と通訳の資格を標準化し認定する唯一の国家 機関として、1977年にThe National Accreditation Authority for Translators and Interpreters (NAATI)を設立、翻訳者の国家資格を創設した。 言語は60カ国語をカバー、大学、大学院でもこの資格を視野に入れたコースを多数設定している。これらのコースで一定レベル以上の成績を修めた場合、翻訳者としてそのレベル相当の国家認定を与える制度となっている。 2. 英国では、1986年に設立されたThe Institute of Translation & Interpreting(ITI)は、イギリスのみならず英語圏で活動する翻訳実務者を支援し、翻訳者の養成と翻訳能力の維持・向上に努めている。産業界、教育界、翻訳団体が一体となって、翻訳者の能力基準として以下の5つに設定し、この翻訳者のスキルの標準化を目標に、翻訳サービスの品質の安定を図っている。 Personal Development(自己啓発)
倫理規範、時間管理、ストレス対処、自己表現、交渉力、等 Subject Knowledge(専門知識)
リサーチ、情報源の確保と維持、インターネットの活用、個人データベースの構築、等 Language Skills(語学スキル)
自国語のスキル、対象言語の知識、推敲、編集、校正、要約、辞書と文献活用、文体、テクニカルライティング、字幕翻訳、等 IT and the Internet(IT・インターネット活用)
最新OA機器とソフトウエアー活用、セキュアリティー確保、翻訳メモリの活用、ターミノロジー管理、翻訳支援ツール、スタジオ実務、等 Business Practice(ビジネス実務)
起業、財務処理、プロジェクト管理、マーケティング、プレゼンテーション、顧客開拓と管理、法律知識、危機管理、等 3. 米国では、弁護士、医者、聖職者に始まり、工学、ビジネス(MBA)、看護、教育、社会福祉、図書館学等に加え、通訳、翻訳者等多くの分野で、所謂プロフェッショナルスクール教育が確立し、これらのプロフェッショナルに修士号を認定、授与している。翻訳専門職の修士号は、バベル翻訳大学院のみが認定。ケント、モントレーなど他の大学院の翻訳専攻もあるが、翻訳専門職大学院としては職業への配慮が弱い。The American Translators Association(ATA)では、ATA-Certified Translators(CTs)という認証試験を設けている。この資格はATA独自のもので、公的資格ではないが、英語と 特定の言語間の翻訳についてプロとしての能力基準を満たすことを客観的に認定している。 4. カナダでは、The Canadian Translators, Terminologists and Interpreters Council (CTTIC:カナダ翻訳者協会)の認定試験(The CTTIC Standard Certification Examination in Translation)は毎年1回、カナダの主要都市で一斉に行われる。対象はプロを目指す翻訳者ではなく、既にプロとして一定の経験を積んでいる翻訳者で、その 能力とスキルを客観的に確認し、認定することが主眼である。 CTTICの認定資格者(Certified Translator)は、ニューブランズウィック、オンタリオ、ケベック、ブリティ ッシュ・コロンビアの各州では公認資格として法的に保護されている。 5.ドイツでは、国内で公文書翻訳を行うには、「公認翻訳士」の資格が必要である。「公認翻訳士」とは、「裁判所で公的に宣誓して認定された翻訳者」であり、その地方を管轄する地方裁判所(または州の上級裁判所)で認定を受けた資格である。  「公認翻訳士」の認定を受けるために持っていなければならない資格が、「国家検定翻訳士」である。これは、ドイツ国内の特定の州の文部省が実施している「翻訳士国家試験」の合格者に与えられる認定資格である。 また、ドイツ国内の主要な大学(ベルリン大学、ボン大学、ライプチヒ大学、マインツ大学、ハイデルベルク大学、ヒルデスハイム大学)の翻訳課程修了者に与えられる「ディプロム翻訳士」という資格があり、こちらも「公認翻訳士」の認定を受けるための資格として認められている。  以上、特筆すべきは、上記の各国は、政府、産業界、教育界、翻訳者団体が4者一体となって進めていることです。 こうした中で、バベルグループは40年にわたり、これら6つの課題のソリューションを試みてきました。以下、その中間報告いたします。
課題ソリューションの試み
  その達成率 ソリューション1. 80%達成 (達成率自己評価)
  翻訳者の能力の標準化⇒ 
  翻訳者の国家資格の構築
バベル翻訳大学院(USA)ではプロフェッショナルトランスレーターの能力を以下の 5つの視点から考え、コースワークをこれらのスキル別に組み立てています。  また、提携している一般社団法人日本翻訳協会の翻訳者の認定資格試験では、同様の考えに基づき、4つのCompetence別資格試験を設定、その4つの試験の合格をもって総合 合格としています。日本翻訳協会では、これに加え、経験審査に基づく独自の翻訳者認定 資格を授与しています。
  1. Language & Cultural Competence Test
    翻訳文法技能試験
  2. Expert Competence Test
    翻訳専門技能試験
    ① フィクション ②ノンフィクション ③IR/金融 ④リーガル ⑤医学/薬学  ⑥特許(IT)
  3. IT Competence Test
    IT技能試験
  4. Managerial Competence Test
    翻訳マネジメント技能試験
    http://www.jta-net.or.jp/about_pro_exam.html
    http://www.jta-net.or.jp/about_business_exam.html
    http://www.jta-net.or.jp/about_publication_exam.html
ソリューション2. 50%達成 (達成率自己評価)
 翻訳の品質保証システム構築 ⇒
  翻訳会社の適格認証制度の構築
バベルグループでは、翻訳の品質認証、翻訳会社の適格認証制度の前提となるのは、翻訳 プロジェクトマネージメントスキルと考え、日本翻訳協会と共同で、翻訳プロジェクトマネージメント資格試験を以下の6つの視点で開発しました。
現在、ISO17100で翻訳品質基準づくりが進行中のようですが、この視点は、その基本になるものと考えています。
  1. 時間管理(TIME MANAGEMENT)
  2. 人材管理 (PERSONNEL MANAGEMENT)
  3. 資源管理 (DATA & RESOURCES MANAGEMENT)
  4. コスト管理 (COST MANAGEMENT)
  5. 顧客管理 (CLIENT MANAGEMENT)
  6. コンプライアンス管理 (COMPLIANCE MANAGEMENT)
    http://www.jta-net.or.jp/open_seminar_tpm.html

ソリューション3. 90%達成(達成率自己評価)
 翻訳専門職大学院の確立  BABEL UNIVERSITY Professional School of Translation (バベル翻訳大学院) を日米合作の米国法人として2000年に開校、2001年、米国教育省認定の教育品質 認証機関のDEACのAccreditationを取得、世界で唯一のインターネットによる翻訳専門職大学院を設立しました。
http://www.deac.org/
そして、第3回目の認証を受けて現代に至っています。
https://www.babel.edu/ ソリューション4.   準備中
 翻訳専門職高等教育機関のプロフェッショナル
 アクレディテーションの実施
 以下、各国の翻訳協会との連携で翻訳専門職高等教育機関のプロフェッショナル  アクレディテーション機関の創設をしたいと考えています。
日本
The Japan Translation Association オーストラリア
The National Accreditation Authority for Translators and Interpreters (NAATI) イギリス
The Institute of Translation & Interpreting (ITI) アメリカ
The American Translators Association (ATA) カナダ
The Canadian Translators, Terminologists and Interpreters Council (CTTIC) 中国
Translators Association of China (TAC) 韓国
Korean Society of Translators ベルギー
CONFERENCE INTERNATIONALE PERMANENTE D’INSTITUTS UNIVERSITAIRES DE TRADUCTEURS ET INTERPRETES(CIUTI) 米国の例を引き、若干の説明を加えると、現在、高等教育の品質認証は一般的な認証と専門職業教育の認証があります。典型例を挙げれば、米国のロースクール(法科大学院)は一般的認証機関(地域、もしくは連邦―ちなみに、Babel University Professional School of Translationが米国連邦の認証)の認証を受けながら、同時にその職業固有の認証団体、American Bar Associationの認証を受けている。
http://www.americanbar.org/aba.html
しかし、残念ながら、世界的にみても翻訳の高等教育に特化した認証機関は存在しない。 従って、翻訳教育という特殊性に鑑み、翻訳に特化した翻訳高等教育の認証機関を国を越えて準備したいと考えています。  ソリューション5. 70%達成 (達成率自己評価)
  そして、『翻訳プロフェッショナリズムの確立』へ 上記、4つのソリューションを進めるなかで、翻訳のプロフェッショナリズム、翻訳プロフェションの確立を目指したいと考えています。
参考までにプロフェッショナリズム、そしてプロフェッションについて補足させていただきます。プロフェッションとは、英語のprofessを語源としている。Professとは神の前で宣言する、という意味をもっています。中世ヨーロッパでは神の前に誓いを立てて従事する職業として、神父、医師、法律家、会計士、教師等の専門家を指していました。彼らは職業を通して神、社会に対して責任を負うという厳しい倫理観で自らを律していました。
ここで一般的に言われるプロフェッションの条件をみてみたいと思います。
  1. 社会的に必要不可欠な仕事に独占的に従事している。
  2. 高度な知識や技術を必要とし、そのために長期の専門教育が必要としている。
  3. 個人としても集団としても、広範な自律性と、その判断や行為に対する直接の責任を負っている。
  4. 営利よりも、公共の利益を第一義的に重視している。
  5. 自治組織を結成し、倫理綱領(code of ethics)をもっている。
  6. 国家、またはそれに代わる機関による厳密な資格試験をパスしている。
下線の部分に関して、若干のコメントをすれば、
1.独占的
  これからは狭隘な独占から、開かれた独占でありたいと考えます。
2.長期の専門教育
  翻訳は知の総合、従って、翻訳教育は本来、大学院レベルの教育であるべきと考えます。
3.自律性
  プロフェッショナルとしての自己責任は当然のことでしょう。
4.公共の利益
 これからの時代は営利と公益は対立概念ではないと考えます。純粋な営利事業であっても公共性が高いビジネスは数多く存在します。
5.倫理綱領(code of ethics)
 日本翻訳協会の倫理綱領をここに紹介します。
http://www.jta-net.or.jp/conduct.html
6.資格試験
 経験の客観指標としての資格を普及させていきたいと考えています。
http://www.jta-net.or.jp/about_pro_exam.html 以上、バベルグループが40年にわたり進めてきた、翻訳プロフェッショナリズムの確立への経過を見ていただきました。
‘ 志 ’まだ半ば、翻訳を通じてこれから‘ 縁 ’をいただける皆様との協力で、翻訳の プロフェショナリズムの確立をめざしていきたいと思います。 最後に、福澤諭吉の3つのことばもって自らの戒めとし、志を完遂したいと思います。 (翻訳のプロフェッショナリズムを高める更なる施策については、次回に譲りたいと思います)

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– 副学長から聞く - 翻訳専門職大学院で翻訳キャリアを創る方法

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グローバル翻訳市場の実情 第1回 グローバル翻訳市場の特徴 ハクセヴェルひろ子さん

ハクセヴェルひろ子

The Professional Translator の読者の皆さん、こんにちは。今から2年半前に半年間にわたって『グローバルに働く-翻訳者として成功する秘訣』という連載で、グローバル翻訳市場で働く方法についてさまざまな観点から論じてきました。しかし、今になってみると、そもそも「グローバル翻訳市場とは何か?」あるいは、「日本の翻訳市場とどう違うのか?」という視点が足りませんでした。そこで、今回の連載では改めてグローバル翻訳市場の特徴を捉え、グローバル翻訳市場で働く際に気をつけるべき点について論じてみたいと思います。 私はこれまでトルコに住みながら約15年にわたり実務翻訳を職業としてきましたが、取引先のほとんどは昔も今も海外の翻訳会社です。世界中の翻訳会社と長年にわたって取引しながら気がついたことは、日本の翻訳会社と海外の翻訳会社とは取引の形態が違うことです。したがって、日本の翻訳会社ばかりと取引してきた翻訳者が、海外の翻訳会社と取引を始めようとすると、日本の翻訳会社では必要なかった知識や技術を求められ、戸惑ってしまう場合もあるかもしれません。今回は、日本と海外の翻訳会社の特徴や違いについて簡単にまとめてみます。

日本の翻訳会社 海外の翻訳会社
一対一の翻訳(英語/外国語→日本語、または日本語→英語/外国語) 英語から複数言語への翻訳
ほぼ日本語のみのコミュニケーション グローバル翻訳市場の共通語は英語
企業が海外から入手する原稿を日本で翻訳する(ソース言語が外国語の場合) 海外で作成された資料を海外で翻訳する
翻訳者の役割は文書の翻訳に限定されている 翻訳は工程の一部分であり、翻訳者は製品化された翻訳(パンフレット、Eラーニングモジュールなど)の品質管理や保証にも関与することが多い
翻訳のチェックや校正は社内のチェッカーが担当 翻訳のチェックや校正は登録翻訳者が担当、または他の翻訳会社に外注、クライアントが直接校正
翻訳支援ツールは必須ではない 翻訳支援ツールの使用が必須

上記の表は、日本の翻訳会社と海外の翻訳会社の特徴の違いをまとめたものです。  まず、日本の翻訳会社で英語や外国語の資料を翻訳する場合、日本語を含めた複数言語に翻訳することはほとんどないでしょう。たいてい、日本語にしか翻訳されません。これに対して、海外の翻訳会社の場合、ひとつの資料が複数言語に翻訳されます。これは、日本の翻訳会社では日本国内の取引先が海外から入手した資料を翻訳するのに対して、海外の翻訳会社では、翻訳資料を作成した企業や団体が翻訳会社に直接翻訳を依頼するためです。言語ごとに別の翻訳会社に発注せずに、まとめて一社に発注すれば、納期や価格など発注のための交渉は一箇所で済んで重宝します。そのため、日本語の翻訳も他の言語と一緒に海外で処理されることが多くなっています。  それでは、日本語/英語から他の言語に翻訳する場合は、国内の翻訳会社ではどのように処理しているのでしょうか。まず、日本語から外国語に翻訳する場合は、翻訳者に日本語のコミュニケーション能力を求めている場合が多いようです。日本語で書かれている内容を理解しないと翻訳はできませんので、日本語の能力を確かめるうえでも、この条件は妥当でしょう。  では、英語から他の言語への翻訳はどうでしょうか。私は、日本の翻訳会社が実施した多言語翻訳(約25カ国語)のプロジェクトの一部(英語→トルコ語)に参加したことがありますが、日本ではこうした多言語翻訳プロジェクトはそれほど多く実施されていないのではないかと思います。ある言語から多言語への翻訳は、元の言語が何語であっても、まず英語版を作成してから他の複数言語に翻訳するのが一般的です。その場合、翻訳者とのコミュニケーションは英語で行わなければなりませんが、日本でコーディネータの募集要領をみると、必要な能力として英語でコミュニケーションがとれる、という条件はほとんどありません。これに対して、グローバル翻訳市場の共通言語は英語です。世界のどこの翻訳会社と取引しても、コミュニケーションは英語で行われます。  5年前と今年の春、日本企業の大型合併のために日本語の資料を英語に翻訳する数千万語単位の大規模翻訳プロジェクトが実施されました。どちらのプロジェクトも米国の翻訳会社に発注され、その翻訳会社から世界中の翻訳会社に案件が出回りました。海外在住の日本語/英語翻訳者のもとには、複数の翻訳会社からプロジェクトへの参加を依頼するメールが届きましたが、日本の翻訳会社や日本在住の翻訳者にはほとんど情報が届きませんでした。これはあくまでも推測ですが、英語でのコミュニケーション能力が問題にされたのだと思います。これはほんの一例ですが、本来であれば日本で翻訳されるべき案件が日本を迂回してどんどん海外に流出しています。  次の特徴として、日本の翻訳会社から受けた案件は、翻訳が終わると社内の他の担当者がチェックや工程管理を行うので、翻訳後は翻訳者の役割もほぼ終了します。これに対して、海外の翻訳会社の案件は、翻訳は大掛かりな案件(たとえば、Eラーニングのモジュール、ウェブサイト、ビデオなど)の一部であり、たいてい翻訳後もモジュール、ウェブサイト、ビデオに製品化されたものをチェックする作業が伴います。  翻訳のチェックや校正ですが、日本の翻訳会社は社内でチェッカーと呼ばれる担当者がチェックや校正を行いますが、海外の翻訳会社では登録翻訳者が翻訳のチェックや校正を担当します。まれに、他の翻訳会社に外注されることもあります。日本のチェッカーは、翻訳業に就く前の修行として認識されることも多いようですが、翻訳を経験していない人がプロの翻訳者の案件をチェックすると、ひどい場合は改悪されてしまいますが、翻訳者にはどこをどう直したのかはほとんど知らされません。これに対して、海外の翻訳会社では、翻訳者と実力が同等またはそれ以上の翻訳者がチェックや校正を行った後、その原稿が翻訳者に戻されます。翻訳者が訂正を受け入れるかどうかは、翻訳者の裁量に任されています。訂正原稿を元に最終原稿を仕上げて納品します。また、クライアントの担当者が翻訳原稿の校正に直接関与することもありますが、その場合も、翻訳者による訂正と同じ工程で処理します。  最後に、翻訳支援 (CAT) ツールの使用についてですが、日本の翻訳会社では使用を義務付けているところはそれほど多くないでしょう。これに対して、海外の翻訳会社では、最低1種類のCATツールを使いこなせないと、登録しても仕事が発注されません。というのは、CATツールはWordだけではなく、ExcelやPPTのレイアウトを整えたり、タグを処理するために必要不可欠だからです。  海外の翻訳会社と取引を始める場合は、上記の特徴や要件を考慮に入れてください。
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翻訳でどこでも、どこまでもドア 釈迦郡享子さん

釈迦郡享子さん

米国セント・ジョーンズ大学法学部卒業。卒業後、ニューヨーク市のNPO法人勤務を経て、現在は、移民法専門弁護士事務所にて、パラリーガルとして勤務。法律文書作成、翻訳業務に従事。現在、バベル大学院のインターナショナル・パラリーガル専攻に在学中。 私にとって、在米13年目となる2014年。 1月から、東京事務所への短期転任が決まり、2014年の元旦は、ニューヨークから東京へと飛ぶ飛行機の中で迎えました。飛行時間約14時間の長い空の旅でした。飛行機の中で振り返った13年。色々な出会い、出来事があり、失敗や悔しい思いがあり、それらすべてが、今の自分を育ててくれたんだ、としみじみ感じたことを覚えています。  私は、ニューヨーク市にある移民法専門の法律事務所でパラリーガルとして仕事をしています。顧客のほとんどは日系企業の方々であり、今までも日本との接点があったとはいえ、東京で仕事をするのは初めての経験です。日本のビジネス文化、ビジネスマナー、はてまた、日常生活の随所に生かされている便利なテクノロジーの習得に挑戦しては、日々、“日本”を再度学び直しています。    実は今、東京へ来て、ニューヨークに住んでいた頃には見えなかったものが、少しずつ見えるようになり、これからの自分の姿についても、その形が着々と形成されつつあるように感じています。これまでの日常であった日々のリズムから離れたことで、視点が動き、この“気づき”へと繋がったのでしょう。  その“もの”は、例えていうなれば、ドアのことです。
 うまく説明できるか分からないのですが、まず、ふるさとの話からさせて下さい。  みなさん、それぞれのふるさとをお持ちと思います。私は、九州宮崎の出身で、青い空と海と、きれいな水と、色とりどりの自然に囲まれて育ちました。私にとって、ふるさとである宮崎は、いつも心の中にあり、夢へ向かう勇気を常に与えてくれる場所です。不思議なもので、ニューヨークの事務所の仕事でストレスを感じる時、宮崎の海と空と緑を頭に浮かべるだけで、心が落ち着くのです。ここでやるだけやってだめならば、私には帰る場所がある。そう思うと、不思議と物事の視点が変わり、辛いことも、イライラすることも、できない、と思うことに対しても、ひとまず頑張って前へ進んでみよう、という思いが生まれてきます。  今回、そんな宮崎に3年ぶりに帰郷し、今まで、そんな心のよりどころを与えてくれたふるさとへ恩返しできることがないか、自分なりに、具体的な形で考えることができました。宮崎に帰って、その場所を歩き、人と話し、そうすることで、明確なプランが頭に浮かんできたのです。  東京では、東京を拠点にやってみたいことにも出会いました。  ニューヨークには、大切な友人達と職場の仲間がおり、更には、職場である事務所があります。   宮崎。東京。ニューヨーク。 
 それぞれの場所に、これから私がやっていきたいことがあります。  物理的に、距離の離れている3つの場所でやりたいことを、すべて同時に、平行線で進めて行くことは可能でしょうか? 私の答えは、YESです。   それは、これら3つが、すべて翻訳に関することであるためです。  翻訳の仕事は、世界を言葉でつなぐお仕事ですが、翻訳者自身も、世界のどこまでも、何カ所も同時に、羽ばたいていける仕事なのです。決められた仕事場で、決められた時間仕事をしなくても良いため、自分の生活のリズムで仕事ができますし、インターネットがあれば、世界の色々な場所で進行しているプロジェクトに同時に関わることができます。  もちろん自分で責任を持ち、自身の翻訳プロジェクトの時間管理や翻訳の質の維持につとめなければなりませんが、世界のどこにいても、インターネットがあれば、常に、世界中の人々へむけて、そのドアを開くことは可能です。  今まで深く考えたことがなかったのですが、今回、東京へ来て思ったことは、ニューヨークにいるから、宮崎のプロジェクトができない、東京のプロジェクトができないというわけではなく、今まで私がそのドアを意識をしないうちに、自分で閉ざしてしまっていたということです。そのドアをあければ、世界の風は自分という部屋に吹き込んでくるものであり、世界のどこへ自身が羽ばたき、何とどこをどう繋ぐのか、翻訳者自身が選ぶことができます。そして、どれだけの世界と繋がることができるのかは、翻訳者自身の技術的なスキルとプロフェッショナルとしての責任の強さだけではなく(これらを持っていることが大前提ですが)、そのドアをどれだけ開けられ、いろんな人々やチャンスをそのドアステップへと導くことができるかにかかっているのではないか、と思います。  ドアを開けて、吹き込んでくる世界の風は、時に失敗や、辛くストレスの多い仕事、そういったものも運んでくるかもしれません。しかし、それらの経験は、きっと翻訳者としての自分の力や知恵となり、成長を促す肥やしとなります。そして、そのような経験を通し、得意、不得意、を明確にし、間引きしていくことで、自分の方向性、専門性を定め、翻訳家としてぐんと成長していけるのではないかと思っています。  自分の翻訳家としての種がどう育っていくのか、どんな花をつけるのか、どんな実が実り、その種がどこへ運ばれていくのか・・・まず、自分の翻訳家としてのドアを開けてみなければ、始まりません。  このドアの存在に気がついた今、渡米13年目にして、もともと渡米のきっかけとなった夢、“翻訳家になる”という道への確実な一歩を今、踏み出したように思います。   皆さんの翻訳のドアはもう、世界へと開いているでしょうか?
 そのドアから、きっとどこでも、どこまでも、羽ばたいていけます。  

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素晴らしき哉、翻訳業! ハクセヴェルひろ子さん

ハクセヴェルひろ子

ビジネス翻訳に従事。バベル翻訳大学院にてMST(翻訳修士号)を取得。世界マーケットでビジネス翻訳に従事する傍ら、翻訳評価、翻訳ビジネスの発展向上をめざしている。Proz.com Certified PRO認定会員 1999年登録。  昨年の9月下旬、私は女性の社会進出に関するレポートを翻訳しました。英文のレポートと一緒に渡されたのは、日本の女性が結婚して子供が生まれた後、働き続けるのがいかに難しいのか、あるいはいったん職場を離れると再就職がいかに難しいのかを延々と述べた日本語の資料。そのレポートを翻訳していくうちにその内容の深刻さとは裏腹に、不謹慎かもしれませんが幸せな、満たされた気持ちになっていきました。翻訳業って何て素晴らしいんだろうと…。  というのは、その素晴らしさを痛感した出来事があったばかりだからです。ここ数年、夏休みは3週間とって日本に帰国していました。ところが、昨年は事情があって更に2週間滞在することになり、日本から主な取引先に連絡を入れました。その時点で以前のように仕事を発注してもらえることを期待するのを止めました。さすがに5週間も休んだあとは翻訳会社も呆れて仕事が来ないのではないかと諦めていましたが、トルコに帰ってみたらありがたいことに2週間で休暇前のペースに戻ったのです。そして、休暇ボケのなまった脳味噌に響いたのがこのレポートの翻訳です。  このレポートを翻訳後、なぜフリーランスの翻訳業が素晴らしいのか改めて考えてみました。まず、自分の生活サイクルを仕事に合わせて完全にカスタマイズできることです。一般の人が組織に属して働く場合は、組織の時間枠に自分の生活を合わせていかなければなりません。そこで、特に女性は結婚して子供が生まれると、組織のサイクルに自分の生活を合わせるのが難しくなります。(このレポートのテーマのひとつがこの件でした。)一方、翻訳業というのは、納期までに翻訳成果物を納品するというのが最大の使命ですので、その間どのように仕事を進めようが完全に翻訳者の裁量に任されています。特に家庭を持つ女性の場合、仕事の合間に家事や買い物を済ますことができます。また、子供たちが小さかった時は、怪我をしたので迎えに来いと幼稚園や小学校から連絡が来たり、朝起きたら熱があって学校を休ませなければならないときは、近くの診療所に空いた時間を狙って連れて行き、処方箋をもらって薬を買わなければなりませんでしたが(トルコの学校は病気で休ませる時は診断書が必要です)、仕事の合間に対応できました。仕事の遅れは、睡眠時間を多少削れば十分に取り戻せます。  次に、自分の裁量で仕事量を加減することができます。私は上の子供が小学校に入学するまで専業主婦でしたので、子供たちがもっと小さかった頃の仕事と家庭を両立させる苦労をせずにすみましたが、それでも小学校の低学年の頃はまだいろいろ手がかかったので、その頃既に始めていた仕事のとPSTの学習時間を確保するのが大変でした。仕事量が多くなってきたのは、子供たちが中学生になって、仕事に没頭できる時間が増えてからです。その頃は「来る仕事は拒まず」の姿勢で、打診された仕事はほぼ引き受けました。夏休みを取る以外はほとんど休みがない状態でしたが、その間に自分の得意・不得意な分野、翻訳に要する時間、体力と気力がどこまで持つのかがわかって有益でした。現在は、その頃のようにあまり無理できませんので、仕事を詰め込み過ぎないように気をつけています。  三番目に、老若男女の差別がなく、完全に実力で勝負できることです。「あなたは女性だから、単価は男性のXX%です」とか、「あなたの年齢では出せる仕事はありません」といった、性別や年齢で差別されたフリーランスの翻訳者はおそらくいないのではないかと思います。翻訳業では当たり前のことですが、前述のレポートを翻訳していて、それがどんなに特殊なことなのかを改めて痛感しました。翻訳業では、男性あるいは女性限定の仕事というのも存在しないかもしれません。もちろん、女性向きの仕事(たとえば、化粧品とか健康産業)というのはあるかもしれませんが、それを男性が訳してはいけないと決まっているわけではありません。  四番目に、仕事をしながら新しい知識が得られることです。翻訳会社から渡される原稿を翻訳しなかったら永久に知らなかったであろう世の中の仕組みや技術を、仕事を通じて学びながら知的好奇心を満たせるという仕事は世の中にそれほどあるものではありません。  以上、翻訳業の利点をとりあげましたが、それでは私も夏休みを5週間とろう、と考えている方はちょっと待って下さい。自分で言うのもなんですが、5週間の穴を埋めるために私は普段かなり努力しています。たとえば、突然入ってくる「超特急」の仕事にはできるだけ対応しています。今日の仕事はこれで切り上げて夕飯の支度をしようしているところに、「(昨日発注し忘れてしまったので)今日中にXXXXワードお願い」という米国から電話で依頼された仕事を引き受けて深夜まで仕事をするために、その日の夕飯は家族にテイクアウトの食事で我慢してもらったり、あまりレートがよくなくて他の翻訳者がやりたがらない、他の翻訳会社から・ヒ頼されるプルーフリーディングの仕事もできるだけ引き受けています。つまり、その翻訳会社にとって欠かせない存在になれるように努力しています。これは、ちょっと間違えば「便利屋」に成り下がってしまう危険性がありますが、主張すべきことは主張しながら、いかにその翻訳会社に食い込むかという自分を売り込む醍醐味を楽しんでいます。  また、翻訳業には家族の協力も欠かせません。私が忙しいときは今は進学のために下宿している娘が食事の支度や掃除を進んで手伝ってくれました。また、専業になったばかりの時は、仕事に必要な時間の見積りを誤ってしまい、週末に車で4時間かかる夫の実家に子供たちと夫に帰省してもらって、その間に集中して仕事を片付けたこともありました。私の仕事を陰ながら応援してくれている家族があって初めてこの仕事を続けていける、ということを改めて実感しました。家族には大変感謝しています。  今後歳をとるにつれて、仕事の量は減っていくかもしれませんが、自分のライフサイクルに合わせて質の充実を目指しながら、できるだけ長くこの仕事を続けていきたいと思います。  

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