第1回 「翻訳のプロとして‘MY DOMAIN’を創る ― 翻訳者としてのエフィカシーをどう高めるか」 に続き
第2回 「抽象のはしごを自在に上り下りし、どこに至る」に行く前に
閑話休題、『ブレのない人生を送る-深い知恵』を差し上げましょう。とは言いながら、その知恵は私のこれまでの人生をあたかもトレースしてくれて、その結論を導き出してくれたようにさえ思える田坂広志さんのお知恵を拝借します。
ここでは田坂広志氏の最新の著書『運気を磨く-心を浄化する三つの技法』(光文社新書)と関連書『すべては導かれている―逆境を越え、人生を拓く五つの覚悟』(小学館)をご紹介しましょう。
これまでの田坂先生とのお付き合いは20余年(本を通じてのお付き合いは30年以上)でしょうか。そもそもの出会いは私のつまらないミスがきっかけでした。私は(株)バベルの専務取締役として、1990年代、当時のほとんどの企業が目指していた、グローバル、そして、インターネットをキーワードに世界にどう打って出ようかと考えていた時期です。
当時から書店にいくたびに田坂氏の新刊を探している自分がいました。あるとき、田坂氏が主宰されていたシンクタンク(ソフィアバンク-私は上智大学出身なのでこの名称も縁を感じていました)の業務内容を見ていた時、インターネットで配信している情報番組を見かけ、これは!!と思い、社員にこれを研究しようとメールを送ったのですが(送ったつもりでした)、それがなんと凡ミスで田坂氏本人に届いてしまったのです。
ところが、田坂氏が待っていたというばかりに、堀田さん、お話をしましょう、という返答でした。おまけに、当時、私が働いていた六本木一丁目の泉ガーデンビルの3階上で働いていると言うではないですか。そんな不思議な縁から田坂先生とのお付き合いが始まりました。そこから田坂先生(ここからは私は田坂氏の主宰する田坂塾の塾生ですので先生と言わせていただきます)のご著書を英訳するというお付き合いが始まりました。先生の本を英訳して世界に!というのが私の役割でした。
今回、これらの著書を紹介させていただこうと考えましたのは、この本をPRしようとの意図ではありません。この本を拝見していて、この本が私のこれまでの人生を整理していただき、背中を押していただいたように感じたからであり、これらの本こそ私が知己を得た多くの方に読んでほしいと考えたからです。また、この2冊は2つ合わせて一つのまとまりとなると思いますので、以下、そのようにお伝えします。
田坂先生はこう語ります。
筆者は、大学の工学部で長く研究者の道を歩み、科学的教育を受けた人間である。それゆえ、基本的には唯物論的な世界観によって研究に取り組んできた人間である。ただ、一方で、筆者は、これまでの68年の人生において、運気と呼ばざるを得ない出来事を数多く体験しており、それゆえ、この運気と呼ばれるものの存在を決して否定できないと感じている。従って、自身の科学研究者としての立場から、この運気というものの科学的根拠が存在するならば、それを明らかにしたいと考えた。
そして、こう語ります。
「良い運気」を引き寄せるため、心の世界をポジティブな想念で満たそうとしても、我々の心の奥深くには、すでに、多くのネガティブな想念が溢れている。そのため、そのネガティブな想念を消すことなく、ただ、ポジティブな想念を持とうとしても、すでに心の中に存在するネガティブな想念の力が、ポジティブな想念の力を打ち消してしまうのである。
さらに、無理にポジティブな想念を抱こうとすると、我々の心は「双極的な性質」を持っているため、無意識の世界に、逆に、ネガティブな想念が生まれてしまう。そのため、ポジティブ思考は、しばしば逆効果になってしまうのである。
そして、続けます。
「無意識を変える方法」として最も大切なのは、
「ポジティブな想念」を抱く方法ではなく、
「ネガティブな想念」を消す方法なのである。
そして、この「ネガティブな想念」を消す方法とは3つあると言います。
「人生の習慣を改める」、すなわち、「無意識のネガティブな想念」を浄化していく技法。
「人生の解釈を変える」、すなわち、「人生でのネガティブな体験」を陽転していく技法。
「人生の覚悟を定める」、すなわち、「究極のポジティブな人生観」を体得していく技法。
その一つ目、「人生の習慣を改める」、すなわち、「無意識のネガティブな想念」を浄化していく技法。
それは、三つの習慣を身に着けること。
第一の習慣 自然の偉大な浄化力に委ねる。
自然の中に身を浸すこと。
自然と正対する。
瞑想とは行うものではない。
瞑想とは起こるものである。
第二の習慣 言葉の密かな浄化力を活かす。
ネガティブな日常語を使わない。
ポジティブな日常語を使う。
他人を否定する言葉は、自分に戻ってくる。
三つの感の言葉を大事にする。感嘆、感謝、感動
心と言葉を一致させる。
第三の習慣 和解の想念の浄化力を用いる。
人間関係において、摩擦や葛藤、反目や衝突がある人と、
心の中で、一人一人と和解していく。
心のしこり、こころの結ぼれを内観する。
感情の明確化、その原因を深く見つめる。
相手と和解する、正対する、向き合う。
その二つ目、「人生の解釈を変える」、すなわち、「人生でのネガティブな体験」を陽転していく技法。
第一段階 自分の人生には多くの成功体験があることに気がつく。
考えるのではなく、感じること。
音楽の力を活かす。その曲を聴くと、その時の体験と感覚が鮮明に呼びこされる。
自分の人生を愛する。
第二段階 自分が運の強い人間であることに気づく。
運の強い人間とは、自分が運が強いと信じている人間だ。
誰の人生にも幸運に導かれた体験がいくつもある。
幸運は不運な出来事の姿をしてやってくる。
幸運に見えることが起こったときだけが運が良かったのではない。
不運に見えることが起こったときも運が良かったことに気がつくべき、
何が起こったか、それが我々の人生を分けるのではない。起こったことを
どう解釈するか、それが我々の人生を分ける。
第三段階 過去の失敗体験を振り返り、それが実は成功体験であったことに気がつく。
この出来事は自分に何を気づかせようとしているのか。
この出来事は自分に何を学べと教えているのか。
この出来事は自分にいかなる成長を求めているのか。
不運に見える出来事の意味が、正反対の意味へと陽転する素晴らしい瞬間。
第四段階 自分に与えられた幸運な人生に感謝する。
天の配剤や大いなる何かの導きに感謝する。
自力の意識過剰は無意識の世界にネガティブな想念を生む。
何かに成功したり何かを成し遂げても、それが天の配剤や大いなる何か
の導きによるものであるとの謙虚な感謝の想念を持つならば、その
想念は無意識の世界に天が導いてくれている、や、大いなる何かが導いて
くれているという深い安心感を生み出す。
第五段階 自分の人生に与えられた究極の成功体験に気がつく。
そもそもこうして生きていることが有り難いこと。
生きているだけで有り難い。
現代の日本に生まれたことの幸運、この地球に生きる77億人の人々の
中で次の5つの条件に恵まれた国に生きるのは我々日本人しかいない。
第一 70年以上戦争の無い平和な国
第二 世界で第三位の経済力を誇れる国
第三 最先端の科学技術の恩恵に浴せる国
第四 国民の誰もが高等教育を受けられる国
第五 高齢社会が悩みとなるほど健康長寿の国
生きていることの奇跡を知る。
人は、必ず死ぬ。
人生は、一度しかない。
人は、いつ死ぬか分からない。
そうであるならば、我々の人生、たとえ何があろうとも、生きているだけで有り難い。
その三つ目、「人生の覚悟を定める」、すなわち、「究極のポジティブな人生観」を体得していく技法。
人生のネガティブに見える出来事も出会いも、すべてを無条件に全肯定し、それによって無意識の世界を究極のポジティブな想念で満たしていく。
第一の覚悟 自分の人生は、大いなる何かに導かれている。
天命、天の声、天の導き、天の配剤。
出会いの大切さ、縁(Destined Encounter)の大切さ。
我々の人生を導いている大いなる何かとは実は我々の心の奥深くに存在する
深い叡智、最高の叡智を持った我々自身に他ならない。
ことばを変えれば真我( TRUE SELF)と呼ぶべきものである。
第二の覚悟 人生で起こること、すべて、深い意味がある。
これはどのような意味があって導かれた出会いだろうか。
これはどのような意味があって導かれた出来事だろうか。
その解釈力。
我々は、いかなる逆境に直面しても、自分の人生は大いなる何かに導かれて
いるという覚悟に裏打ちされた解釈力を発揮するならば、その逆境を人生で
起こること、すべて深い意味があると前向きに受け止めることができる。
第三の覚悟 人生における問題、すべて、自分に原因がある。
すべてを引き受ける大切さ、その魂の強さ。
自分に原因があると受け止めることによって、自分の成長の課題に気がつき、
さらに大きく成長していけるというポジティブな想念。
引き受け。
この心の強さを身につけるには究極の解釈力を身につける。
第四の覚悟 大いなる何かが、自分をそだてようとしている。
大いなる何かが自分を育てようとしている。
そして、その成長した自分を通じて、素晴らしい何かを成し遂げようとしている。
逆境とは成長の機会であり、脱皮と飛躍の好機でもある。
すべての出来事が深い意味を持ったポジティブな出来事である。
志や使命感を抱いて歩む人物は、不思議なほど良い運気を引き寄せる。
第五の覚悟 逆境を越える叡智は、すべて、与えられる。
5つの叡智とは
・直観―何かの勘が働く。
すべてを天に委ねる、全託の思いで祈るとき、静寂、無心のなかで得られる。
・予感―ふと未来を感じる。
未来の記憶。
・好機―上手く機会を掴む。
・シンクロニシティ ―偶然の一致が起こる。
共時性現象、以心伝心。
・コンステレーション―何かの意味を感じる。
布置(心理学用語)、星座、無関係なことがらに
物語性、関係性を感じ取る。
しかし、そうは言っても、この問題や逆境を越える叡智はすべて与えられると言う強い心を持つことは難しいのでは、という問いに対して、田坂先生は続けます。
人事を尽くして、天命を待つ。(これは私、堀田の祖父の座右の銘)
人間というものは、ぎりぎりまで追い詰められたとき、不思議なほど叡智が降りてくる勇気が湧きあがってくることも事実である。
そして、覚悟を定める方法として祈ること、と言います。
しかし、願望の祈りは しばしば心の奥深くに、その逆の想念を生み出してしまい、それが本当の祈りになってしまうため、どれほど懸命に祈りを捧げても、その祈りと逆の結果を招いてしまうことが起こる。
では、どのような祈りを行うべきなのか。
それは全託の祈り。
導きたまえ。
それは文字通り全てを託すること。
すべてを大いなる何かの導きに委ね、託すること。
なぜなら我々の人生は、
現象的になにがあろうとも、
本来大いなる何かによって、
必ず良き方向へ導かれる人生だからである。
そして、
その大いなる何かとは、
我々の心の奥深くに存在する
真我と呼ぶべき、我々自身だからである。
人生に起こること、すべて良きこと。
田坂先生はそう結びます。
そして、続けます。
『本書においては、小生の人生において起こったその不思議な体験の数々を、初めて公に語りました。』
私も、本書に出てくる体験談をいくつかは直接聞かせていただきましたが、田坂先生の‘ぶれない仕事ぶり’の秘密は何なのかをかねがね探りたいと思っていた一人として読者の皆さんにご紹介させていただきました。
『安易な神秘主義に流されることなく、あくまでも理性的な視点から、』と本人も言っておられるように、深く納得し、こころ揺さぶられる書でした。
田坂広志略歴:
原子力工学博士、日本総合研究所設立に参画、多摩大学大学院教授、ダボス会議を主催する世界経済フォーラムGlobal Agenda Councilのメンバー、TEDメンバー、2011年東日本大震災と福島原発事故に伴い内閣官房参与に就任、現在、21世紀の変革リーダーへの成長をめざす場「田坂塾」を開塾、全国から5,000人を超える経営者やリーダーが集まる。
著書は国内外で90冊余り。