学長メッセージ Part3 『バベル翻訳大学院(USA)開設の思い』

湯浅 美代子

Chancellor
湯浅 美代子

 さてこれまで何度か、バベル翻訳大学院をどのような考え方で進めてきたのかについてお話しする機会がありましたが、今日は、何故バベル翻訳大学院はインターネットになったのかに関連して、どんな考え方でこの大学院を開設したのかについても触れたいと思います。現在、修士それから博士のための課程を設けている大学院は世界各地に沢山あります。もちろん、私は世界各地の全てはわかりませんが、アメリカのシステム、日本のシステムを踏まえた上でお話をしたいと思います。

 今バベル翻訳大学院は修士課程のプログラムを提供しています。これを取得するとマスターということになります。アカデミックな大学院の課程には、専門分野の学術的な内容・知識を修めそして学位を得るというニュアンスがあると思います。その後の博士課程になりますと、そういった専門の知識を修めた後で、ドクトリンつまり自分のユニークな研究成果、それをベースにした自分の考えを持つ、何かユニークな実績を持つ、ということで論文を書いて博士号を取得することになるわけです。

つまりその分野について、ある種オンリーワン的なプロフェッショナルになると言えるのではないかと思います。では、そういうアカデミックな大学院と比べて、バベル翻訳大学院はどんなものなのかということになりますが、バベル翻訳大学院はアメリカで設立された大学院です。修士課程のみがあります。この大学院を開設した目的は、グローバルな社会へと世界がどんどん進んでいく中で(地球はご承知のように多言語・多文化の世界です)、そこを一つのマーケットとして捉え(グローバルな生き方を人類は選んできているわけですけれども)、その中で深いコミュニケーションとスムーズなコミュニケーションを実現することによって、グローバリゼーションを進めていく必要な役割を担う専門的な人材、プロフェッショナルトランスレーターを養成して、地球のマーケットが一つになることに貢献したい、そのように考えてこの大学院を開設したわけです。
プロフェッショナルトランスレーターとは、どんな人材を育てるのかといいますと、翻訳実務能力、技術をしっかりと身につけた人材であるということがまず第一です。では、プロフェッショナルであるとは何を示しているかということです。修士課程ですから、ドクトリンを持って博士号の取得を目指したり、自分がこの分野についての一家言を持っているんだという所までは行かない博士の前期課程と言えると思います。

そうは言っても、翻訳学の体系をきちっと修めることは、各言語の持つ独特のルールや文化的な習慣を別の文化や言語と比較することの中から、いかにしてコミュニケーションできるものを文章として紡ぎ出していけるのか、という基本的な研究、研究プロセスを学習プロセスの中に内在していますから、単に翻訳の技術を学べばいいという希望を持っている方はもちろん、何故そういうことができるんだろうか、もしくは自分で更にバベル翻訳大学院が提供している翻訳文法を自分なりに深めて研究をしていきたいとお考えの方にとっても役に立つプログラムを提供できるわけです。そのように、今揚げた二種類の目的を持った方のどちらにもお応えできることを考えて設立をいたしました。

ところで、各国にはそれぞれの教育制度や習慣があります。バベル翻訳大学院は、冒頭に申し上げましたように、世界中からインターネットで学習ができる、入学ができる、そういう特徴を持っていますので、各国独自の習慣にはあまり馴染んではいません。ですから、アメリカの大学院でありながら、日本とアメリカとの間の翻訳プロセス、翻訳実践研究によって作られたカリキュラムであるということからも、アメリカの制度とも少し違っています。では日本の制度とはどうなのかというと、やはりそれもまた少し違っています。各国の制度と全く同じとは思ってはいません。

そういう意味で、この地球上にある翻訳大学院、多くの専門教育カリキュラムを持った翻訳大学院としては、目下オンリーワンの特色をもつ大学院なんです。しかもインターネットで行うという、これまでにない特徴を持った大学院であるとお考えいただけると幸いです。世界にお手本がない初めての試みを、私共はやってきたわけです。ですから、いろんな意味でチャレンジングなことが沢山ありましたし、これからもきっと、いろんな意味で一つ一つ課題を解決していきながら、世界レベルの学習を目指す皆さんにとって少しでも学習しやすい環境を提供し、学びによって質的成長が遂げられるように変化をさせていきたいと思っています。
 バベル翻訳大学院は、そういうことをストレートに考えている大学院であるとお考えいただければ幸いですし、私共も皆そう願っております。

翻訳といいますと、これまで実際に翻訳ビジネスとして流通しているサービス体系というものがあります。
しかし、ヨーロッパではこうですよとか、アメリカではこうですよとか、日本ではこうですよという、やはりその地域ごと、具体的には国や言語文化圏と関連して、従来蓄積されてきた産業としての商習慣、ルールといったものが形成されています。当然ながら、地域ごとの翻訳業界といったものがあろうかと思います。もう一つは、翻訳を行う専門分野によっても、IT関連の業界だとこうですよとか、映画・映像の関連だと又違う商習慣があったりというように、様々な業界の違いがあります。

実務と言いますと、そういう業界の商習慣や業界に通用する実務知識、技術ということだけを思いがちですし、それを踏まえて適切かつ迅速に対応できることはとても大事です。しかし翻訳というのは国境を超える試みです。言いかえれば翻訳者は、グローバルコミュニケーションの担い手であり、翻訳はその具体的な方法論になります。そういう意味で、各国の、又はこれまでの業界団体、先輩達が築き上げてきた業界のルール、専門知識を知ることは大事ですけれど、それに囚われてしまって、そこへ到達することだけを目指しているわけではありません。

もちろんそれは達成したいレベルなんですが、それを更に越えて、グローバル社会を私達が作り上げるという大きな目標に向かってチャレンジをしていく、自分達がこれまで体験してきた商習慣、又は業界の知識といったものを越えて、新しい商習慣、もっとやりやすい業界知識や水準、そして品質も更に既成の業界水準を越えていけるような、そういうものにチャレンジしていける考え方、姿勢、これを私共は「志」と呼ぶことが多いんですけれども、そういうことを考えていきたいと思っています。

グローバリゼーションの担い手として、まずは自分がこんな地域でビジネスを開業したいとか、開業するだけに留まらずにライフワークとしてこんなことに取り組んでみたい、そんな希望を持って入学される方も沢山いらっしゃいます。バベル翻訳大学院は、そういう方も大歓迎です。そういう方々も、初めはまず自分が馴染んできた所から入っていく、又は今研究対象としている分野、地域、マーケットといったものを学びつつ入っていくことが、現実的なアプローチではないかなと思います。初めは、一体何をするのかとドキドキされるのではないかと思うんですけれども、安心していただいて、今まで自分が蓄積してきたことを、一つのスタートライン、スターティングポジションとしてスタートを切っていただきたいと思います。

以上、バベルのインターネットによる大学院の成り立ちと、進め方について概略を少しだけお話しをいたしました。ところで、これはよく私達がお互いに問いかけをして楽しむことなのですが、「バベル翻訳大学院は一体どこにあるの」という問いです。皆さんどうお考えになるでしょうか。確かに、リーガルにはアメリカ合衆国にあります。アメリカのリーガルシステムに則っています。でもそこに行けば授業はあるのですかというと、ないですね。例えばスタンフォードはサンフランシスコの郊外にあります。私も行きました。スタンフォード大学はそこにありますと言いますが、たしかに建物はそこにあります。では建物が学びの実態かと言うと、これはおかしな話ですね。東大はどこにあるのですか。もちろん本郷にあります。しかしそれは、東大の建物とリーガルな、つまり登記上の場所、それから先生と会える場所、友人達と気兼ねなく語り合う場所に過ぎないのであって、知識や学習の内容そのものがそこにあるんでしょうか。こんな問いかけを是非していただきたいですね。

そういう意味合いから、私達のバベル翻訳大学院は一体どこにあるんだろうかといつも問うことにしています。さあ、あなたの回答はどうなりますでしょうか。よく耳にする私達ファカルティーの回答は、私の頭の中だ、私の心の中だなど様々で、お互いに悩んでしまうことがあるんです。そのように、バベル翻訳大学院の学習体系、内容、それから学習の場といったものは、確かに世界の各地、どこにでもあるのですね。あなたが学習をしようと思って、そしてインターネットにアクセスした時、又はそこからダウンロードした教材を開く時、学習をしようと思った時、その場所にいつでもバベル翻訳大学院は現れるのです。

修了生の方達も、私はバベル翻訳大学院の修了ですと思った時に、自分の大学院で学んだ学生の時のアイデンティティー、修了すると<マスターオブサイエンス・イン・トランスレーション>つまりMSTホルダーになるのですが、そのMSTホルダーを意識した時、バベル翻訳大学院は、あなたの脳の中にいつでも立ち現れるんです。東大卒業ですと言うと、東大の赤門の雰囲気とか先生が思い出されるのと同じように、立ち現れるわけです。

すると、実際に建物がそこにある大学、つまり旧来の通学制の大学ですね、それとインターネットで学ぶ大学院のシステムとを比べてみると、どれほどの違いがあるのかないのか、だんだん疑わしくなりますね。確かに、お父さんやお母さんを連れて行って、ここが私の母校ですという場合と、わざわざそうしなくても、PCでこれが母校なのよという場合の感覚の違いがあるかもしれません。でも、そう考えると、通学する教室の中に私の学習する知識の体系があるのではなくて、先生から伝えられる学習の場で自分が受け取ったもの、つまり能の働きによって情報伝達として受け取ったものの中に知識の体系があるのだということが分かります。

 そういう意味で、わざわざ現地まで行かないと学習ができないなという、ある種の制限や不便な条件を乗り越えて、いつでも自分が学習したいと思った時、もちろんインターネット環境は最低限必要ですが、それがあれば、どこででも自分の好きな時に学習ができるというのが、このインターネットのプログラムの一番素晴らしい点の一つではないかなと思います。これからグローバリゼーション、どちらかというと欧米諸国が中心になって進めてきたグローバリゼーションでしたが、そこを更に越えて、地球が本当に一つに繋がることで住みやすい地球環境といったものを私達が一緒に作り上げていく、そういう意味での真のコミュニケーションを担って行こうとする方にとって、このバベル翻訳大学院で学んでいただくということは、非常にお役に立てるのではないかと思います。

 世界の各地にいらっしゃる方々とご一緒に学べる、大学院側が提供するプログラムだけではなく、そこに一緒に集う世界中の学習者との交流が素晴らしい財産であり喜びになると、そんなことを強く感じている今日この頃です。どうぞ皆さん、よろしかったらご一緒に学んでみませんか。

ご清聴ありがとうございました。

バベル翻訳大学院(USA)湯浅学長メッセージ

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