最近、大学院生、アラムナイの方々とキャリアカウンセリングをする機会が多くなりました。その際気づくのは、自身の目標が初心からずれはじめ、学習が前に進まず滞っている場合が多いことです。長い人生、長い学びの過程で‘ぶれる’ことは当然かと思いますが、なかなかそのぶれが修復できない方もいらっしゃるようです。かく言う私も常に‘ぶれ’を修正しながら生きていると言うのが真実ですが。
今回から8回にわたって、Find your own uniqueness, define your own success.を念頭に成功するキャリアの創り方を連載していこうと考えています。このテーマは1年前に連載してきたものですが、最近の新しい視点も織り交ぜながら皆さんとともに考えていきたいと思います。この連載の核となる【Find your own uniqueness, define your own success career診断】は、ご自身で体験することが必要だと思います。
第1回 「翻訳のプロとして‘MY DOMAIN’を創る ― 翻訳者としてのエフィカシーをどう高めるか」
翻訳者としてのエフィカシーをどう高めるか初心にかえり、暫しを自分を再発見するための仕込みの期間と考えて、ご一緒に‘MY DOMAIN’ をつくることにチャレンジしませんか。
これが【Find your own uniqueness, define your own success career診断】です。
この詳細は、次回以降にご紹介しますので、ここでは簡単にご説明しておきます。以下の5つのワークシートを使って、あなた自身のキャリアの成功領域‘MY DOMAIN’を創っていきます。ワークシートは次の5種です。
- 【キャリアサクセス実現シート】
- Phase 1. 自己発見シートの作成 Find your own uniqueness
- Phase 2. キャリアビジョン作成 Define your own success
- Phase 3. スキル棚卸しシート作成 Do your own inventory
- Phase 4. 5年後の未来履歴書作成 Write your future resume
- Phase 5. 5年間のアクションプラニング作成 Make your action plan
今回は、その‘MY DOMAIN’ づくりのワークに入る前の準備のお話しです。
それは、まず、「なぜあなたは翻訳という仕事を選んだのか」という問いから始まります。‘MY DOMAIN’ づくりの前提として、ご自分の翻訳ビジネスへ向かう動機を、今一度、考えてみましょう。そこで考えていただきたいのが‘翻訳者としてのエフィカシー’ということです。
あなたはエフィカシー(efficacy)ということばを聞いたことがあるでしょうか。
コーチング理論等で使われる用語で、簡単に言えば、能力の自己評価のこと。このエフィカシー(efficacy)が低いと常に自己嫌悪に陥り、目標も達成できず、悪循環となりがちです。
あなたは、翻訳者、翻訳業として、高いefficacyをもち続けているでしょうか。
翻訳者の社会的役割、いや、地球的、いや、宇宙的役割までも気づいているでしょうか。
翻訳では大金は稼げないと、半ばあきらめ、達観していませんでしょうか。お金を稼ぐことだけが目的なら、職業を変えれば良い訳で、それは安易に翻訳という職業を選んだ結果だ、とも言えるのではないでしょうか。
ただし、この点に限って言えば、翻訳でも十分お金は稼げます。翻訳出版で何億円もの印税収入が得られた例もご存知ですね。でも、そんな上手い話は少ないと思う方は、ビジネス翻訳で戦略的に専門分野のキャリアを創れば、コンスタントに収入が得られます。
お金でお金を稼ぐ投資家のような商売であっても、上手くいく人もいれば、失敗する人もいます。何が成功と、失敗を分けるのでしょうか?
では、翻訳ビジネスではどうすれば、望む収入を得られるようになるのでしょうか? それには、2つの方法があります。この詳細は、これ以降、ワークシートに沿って説明しますが、ここでは簡単に説明しましょう。
そのひとつは、翻訳の分野、専門を徹底して絞り込むこと。自分だけの専門分野を確立することです。そのうえで周辺の翻訳分野もその対応領域に取り込みます。これは、言わば、戦略的縦展開。
そして、2つめはその翻訳ジャンルを戦略的に横展開すること。
すなわち、その特化した分野での翻訳業務だけではなく、ライティング(本、記事を書くこと)、レクチャー(講義をすること)、リサーチ(レポートを書く)等、翻訳の専門分野に基づく領域を横に広げていくことです。
翻訳という職業でお金を稼ぐことを考えるうえでは、この様な縦横のクロス戦略を実現できれば、安定収入につながります。
話をもとに戻しましょう。ここで改めて自らを省みる意味で、翻訳者としての、あるいは翻訳ビジネスに就くものとしてのエフィカシー(efficacy)を考えてみましょう。
翻訳者としてのエフィカシー(efficacy)、高い自己評価をあなたは持っていますか、自信はありますか?それができないから、こうして悩んでいる・・・・。そんな声が聞こえてきそうですね。
翻訳者としてのエフィカシー(efficacy)をどう高めるか、それは、あなたのドメインを作る上で欠かせないもので、翻訳のもつ本質的な意味を考えることに等しいと思います。
あなたは翻訳者をめざし、翻訳業に携わり、翻訳をどうとらえて、翻訳にどんな生きがい、やりがいを感じていますか。
ふと出会った、ある国のある書籍の翻訳書から、人生を変えるヒントをもらい、そこから人生の景色は一変したという方もいらっしゃるでしょう。
また、ある国、ある地域の人々が行っていたその土地固有の社会習慣を字幕翻訳付きビデオで見て、自分の国、地域社会を動かすひとつの仕組みとして利用できると気づいて、これをきっかけに社会起業家として自立したという方も知っています。
そのように、翻訳という行為は、世界の‘智’の共有を実現し、新たな気づきを誘発するのに重要な役割を果たしています。
このように、翻訳者の世界的、宇宙的役割に目を向ける時、翻訳に携わるものとして、そのefficacy(自己評価)が一変するように信じます。
世の中には、お金を稼ぐだけなら、翻訳者より稼げる職業は山とあるでしょう。
しかし、皆さんが、そして、BABELグループが翻訳という仕事を選んだ理由、その意味を今一度、自らに深く問いかけてみたいと思います。
バベルが、約50年に亘り、バベル翻訳専門職大学院、バベルプレス、ブックス&ライツマーケットプレイス、翻訳者派遣・紹介業、翻訳サービス等の事業を行い、今、『The library for Professional Translators』、そしてその発展としての『地球図書館(Babel Library)』創りを進めようとしているのは、まさにバベルの使命と信じる翻訳のもつ地球的、宇宙的意義に気づいたからです。
皆さんも、この機会に‘私は、今、なぜ翻訳なのか’を改めて自らに問いかけてみてはいかがでしょうか。そこから再出発するのも回り道とはならないでしょう。
では、次々回から、5つのワークシートの作成方法を解説していきます。それまでに、あなたのドメイン(あなた固有の専門領域)について思いを巡らし、あなた自身の エフィカシーを意識してみましょう。
WEB雑誌 「The Professional Translator」通巻160号より