ー大森さんの喜びの声ー
『ダーウィンと進化論』が出版されて、およそ1年。当時お世話になった編集者の方から、「厚生労働省社会保障審議会推薦児童福祉文化財に認定されました!!!!」という突然の知らせを受けて本当に驚きました。正直なところ、最初は、この長々と羅列された漢字の意味を理解するのに忙しくて、すぐに喜びを実感することはできませんでした。でも、自分の訳書が「全国の子どもたちにお薦めできる本」として公に認められたのだということを理解するにつれ、じわじわと喜びが込み上げてきました。そして、この作品を完成させるにあたり、ご尽力いただいた丸善株式会社の方々と、応援してくれた家族に対し、改めて感謝の気持ちが沸きました。
『ダーウィンと進化論』をやろうと思ったきっかけは、2009年が、ちょうどダーウィン生誕200周年ならびに『種の起源』出版150周年という記念すべき年だったからです。この機会を逃す手はないということで、インターネットで調べていたところ、本書を見つけました。ほとんど、一目惚れでした。ビーグル号での探検、進化論をめぐる論争、飽くなき探究心と勇気などなど、ダーウィンのドラマチックな人生と人柄の物語に一気に引き込まれたのです。また、伝記としては大変珍しい体験コーナーが多数含まれていましたし、芸術性あふれる挿絵の数々にも魅力を感じました。出版社は、わざわざ「ジュニアサイエンス」という新しいジャンルを設けて、この本を出版してくださるといいました。
私としては、とにかく、この原書の魅力を損なわないようにと、楽しみながら、丁寧に訳出していくだけでした。途中、まだ小学校に上がっていない息子たちが、実際に原書の挿絵に興味を示したのは嬉しかったです。そのため、ちびっこ相手にダーウィンの功績を語ることがたびたびあったのですが、そういった子どもたちの反応も、翻訳作業を進めていくうえで大きな励みになりました。
このような経緯と思いで作り上げた『ダーウィンと進化論』は、まさに私にとっての宝物となりました。是非とも、多くの方々に読んでいただきたいと思います。 また、今回、児童福祉文化財の認定を受けたことを謹んで受け止め、今後の翻訳活動に活かしていきたいと思います。
ー私がバベル翻訳大学院(USA)で学んだことー
バベル翻訳大学院では、英単語や英文法に関する翻訳のノウハウはもちろん、徹底したリサーチを行うことの重要性を学んだことが大きな収穫でした。 今では、たった1つの単語や文であっても、よく分からないことがあれば、複数の辞書を引き、信憑性のあるHPからの情報を収集し、図書館からさまざまな資料を借り、時にはその道のエキスパートに質問するなどして調べます。 原稿の締め切りを考えると気が急くこともありますが、この地道な作業を抜きに良い作品をつくることはできません。 翻訳をしているなかで、苦しくて、苦しくて、でもやっぱり楽しいのが、こういったリサーチをしているときですね。
また、ワークショップでいろいろな人の訳文に触れ、修了作品でまとまった量の翻訳にチャレンジできたこともプラスの経験になりました。そして、先生方のアドバイスを受けながら、修了作品の出版化を実現できたからこそ、今こうして出版翻訳の仕事に携わることができているのです。 ちなみに、修了作品には『光る遺伝子』といって、オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質について書かれた本を選んだのですが、それから間もなく、この蛍光タンパク質の発見者として下村脩先生がノーベル化学賞を受賞されました。
そして『光る遺伝子』と同時に出版が決まった『ダーウィンと進化論』は、この度、児童福祉文化財に認定されました。「私はなんて運がいいのでしょう!」と思わずにはいられません。 そこで、ふと、以前どこかで目にした湯浅学長のことばが頭をよぎるのです。たしか、このようなことをおっしゃっていました。
ーー原書選びのポイントは、自分が読んで楽しいと思う本を探すことです。
自分が好きになれないような本を、読者が好きになることはないでしょうーー改めて、作品選びの大切さを実感する今日この頃です。
[box color="lgreen"]<プロフィール>
オランダ生まれ。ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校メディカルテクノロジー科卒業後、国内製薬会社研究員を経て、バベル翻訳大学院テクニカル&サイエンティフィック翻訳科卒業。翻訳修士。 訳書に厚生労働省社会保障審議会推薦児童福祉文化財認定図書の『ダーウィンと進化論ーその生涯と思想をたどる』と『ガリレオと地動説ー近代化学のとびらをひらいた偉大な科学者』があるほか、『エジソンと発明ー努力とひらめきで失敗を成功につなげた偉人』、『光る遺伝子ーオワンクラゲと緑色蛍光タンパク質GFP』、『ニュートンと万有引力 宇宙と地球の法則を解き明かした科学者』(いずれも丸善出版)がある。また共訳書に『デトックスマニュアルー「きれい」をからだの中からつくる法』(バベルプレス)、『おもしろいように伝わる!科学英語表現19のツボ』、『テクニカル・ライティング必須ポイント50』、『実験レポート作成法』(いずれも丸善出版)がある。