本誌、前々号でバベルグループの使命に関して「翻訳のプロフェショナリズムの確立」 と言ったそばから、なぜアマチュアリズム?とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。 別に、ボランティア翻訳を推進しようと言うわけではありません。 これを別の言い方をすれば、「教育的翻訳を極める」と言っていただいても構いません。 教育的翻訳というと馴染みがないと思いますが。 教育的ディベート(Academic Debate)をご存知でしょうか。バベルでも90年代に約10年間、米国のディベートチャンピオンとコーチ(教授)を日本に招請して、日本全国の教育的興行を全面的に後援しておりました。日本語と英語でディベートを行い、ディベートの効用を謳ってきました。当時は松本茂先生(バベルプレスで「英語ディベート実践マニュアル」刊行、現立教大学経営学部国際経営学科教授、米国ディベートコーチ資格ホールダー)、故中津燎子先生(書籍「なんで英語やるの?」で大宅壮一ノンフィクション賞受賞)にお力添えをいただいておりました。 話が横道に逸れてしまいましたが、教育的ディベートとは、論理構成力を涵養する教育の 一環としてディベートの手法を活用しようという考え方でした。 ここで私が言う、「教育的翻訳とは」大学生以上の成人層を対象とするものと小中学生等を対象にするものとを考えているのですが、プロ翻訳家の養成という意図はありません。 ここでは説明をわかりやすくするために、後者の例をお伝えします。 バベルグループの歴史が40年となることはこれまでにお伝えしました。その間、翻訳に関しても様々な実験的な試みをしてきました。私が前職(JTB外人旅行部)からバベルに転職したときのバベルの面接官が、当時教育部長をされていた故長崎玄弥先生でした。長崎先生は海外に行くこともなく、英語を自由に操る天才的な方でした。当時は奇跡の英語シリーズで100万部を越えるロングセラーを執筆されておりました。 その面談は急に英語での面談に切り替わって慌てた覚えがあります。 その長崎先生と翻訳に関するある実験的な企画をしました。 当時、中学の1,2年生を7,8人募集して、中学生に翻訳(英文解釈、訳読ではない)の授業をするという試みでした。週に2,3回、夕方を利用して、かれらに英米文学(ラダーエディション)の翻訳をさせたのです。詳細は置くとして、それから約1年後は、なんと彼らの英語、国語、社会の成績が1,2ランク上がったのです。英語の成績が上がるのはもっともとしても、社会、国語の成績が上がった時は、翻訳という教育の潜在力を実感したものです。あれから20余年、懸案を実現するに、時が熟して来たと感じています。 現在の英語教育では、文法訳読形式が否定され、コミュ二カティブな英語教育が推進されるなか、実効性が上がらないのを目の当たりにして、明治時代以前の教育にも見られる「教育的翻訳」の必要性をうすうす感じているのは私だけではないのかと思います。 また、余談を言わせて頂ければ、コミュ二カティブな英語を涵養する優れた教育方法は 「教育的通訳」とバベルでの企業人向け教育の経験で実感してきました。 これはのちに上智大学の渡辺昇一先生(現上智大学名誉教授、書籍「知的生活の方法」で一世を風靡)が、その実効性に関する大部のレポートを発表されておりました。 話が横道に逸れてしまいましたが、この「教育的翻訳の普及」が、言語教育、異文化理解、異文化対応、感性の涵養等、小中高等教育のみならず成人教育、更には日本の世界における新たな役割認識に新しい地平を拓くものと信じています。 詳細は、次号以降でお伝えします。
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